
2012年の夏に、細田守監督の最新作が公開されました。
本記事では、『竜とそばかすの姫』のあらすじや考察。物語のネタバレや『サマーウォーズ』や『美女と野獣』との類似点まで、作品の見どころをご紹介します。
- 映画のあらすじや概要
(ネタバレなしで読むならこちら) - ネタバレ解説
(ネタバレ解説を読むならこちら) - 6つの考察ポイント
(今すぐ読むならこちら) - 『サマーウォーズ』との共通点
(今すぐ読むならこちら)
『サマーウォーズ』にも登場した仮想世界。オマージュ元になった『美女と野獣』。
これら作品との「関連性・類似点」も含めてお楽しみください。
映画『竜とそばかすの姫』の作品概要・キャスト・スタッフ
『竜とそばかすの姫』は、細田守監督が手掛けるアニメーション映画の最新作です。
物語の主人公は、女子高生「すず」。舞台のモデルは、高知県です。
自然豊かな村に住んでいる「すず」は、母親の死から立ち直れずにいました。
しかし仮想世界で暴れる謎のアバター「竜」との出会いをきっかけに、再び前を向き、成長していきます。
制作は、『サマーウォーズ』や『バケモノの子』など、数々の人気アニメーション作品を手掛けてきた「スタジオ地図」です。
本作品は、スタジオ地図が始まって10年目という節目の年を飾る映画になります。
そんな記念すべき作品に声をふきこむのは、今回声優初挑戦となるミュージシャン「中村佳穂」。俳優の成田凌、染谷将太、YOASOBIのボーカル幾田りらなど、超豪華キャストです。
2021年夏、細田ワールドの新しい世界が公開されました。
公開日 | 2021年7月16日 |
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上映時間 | 121分 |
興行収入 | – |
監督 | 細田守 |
音楽 | 常田大希率いるmillennium parade |
主題歌 (YouTube) | millennium parade – U |
キャストor 声優 | 中村佳穂 佐藤健 成田凌 染谷将太 幾多りら他 |
予告動画 (YouTube) | 『竜とそばかすの姫』予告 |
公式サイト | 『竜とそばかすの姫』公式 |
映画『竜とそばかすの姫』の見どころ※ネタバレなし
物語の世界観そのものを「歌」で表現するベルの歌唱力は、本作品一番の魅力といっても過言ではないでしょう。そんなベルの声を担当するのは、京都生まれのシンガーソングライター「中村佳穂」さんです。
2019年、フジロックフェスティバルにも出演した経験を持つ実力派で、その透明感のある歌声は、映画の臨場感を引き立たせます。主人公が歌手というアニメーション作品は数多くありますが、彼女の歌声は異彩を放っているといえるでしょう。細田監督に「彼女しかいない!」と言わせたほどの演技力と歌唱力は必見です。
最新技術と、世界の最前線で活躍するクリエイターたちによって作り上げられる映像美を体感すれば、鳥肌が断つこと間違いなしです。
竜を中心に巻き起こるインターネット空間の混乱は、SNSにおける「炎上」と共通点があるように感じられます。「仮想空間と現実との境界が極限まで薄まった<U>」と「SNSの未来」が、どこか重なって見えるのではないでしょうか。
コロナ禍によって、「更に日常と結びつきが強くなったインターネットの未来」。そんなふうみると、細田監督の描く世界観に引き込まれます。
映画『竜とそばかすの姫』ネタバレあらすじ解説
それでは、映画『竜とそばかすの姫』のストーリーを紹介していきます。
ここからはネタバレ記事です。
結末や展開を知りたくないという方は、ご遠慮ください。
物語の始まり。<U>を知るまでのすずの世界
主人公「すず」は、高知の田舎町に住む17歳の高校生。
子どものころ、母と一緒にスマホアプリで曲を作ったり、町に流れるきれいな仁淀川で遊んだりすることが大好きでした。
しかし、母との別れは突然やってきます。
中の島に取り残された子どもを助けに、雨で流れが早くなった仁淀川に飛び込み、帰らぬ人となったのです。
なぜ自分を置いて、名前も知らない他人の子を助けたのか。自分はどうして一人なのか。
すずは母親を亡くした心の傷が癒えないまま、高校生になりました。
やがて大好きだった歌も歌えず、父親や友達とも距離を取るようになりました。
途方に暮れていた冬のある日、親友のヒロちゃんから、仮想世界<U>への招待コードが届きます。
「<U>でなら人生をやり直せる」という言葉に背中を押され、もう一人の自分「ベル」の姿で<U>の世界に飛び込みました。
As(アズ)というアバターの姿に、少し困惑するすず。
しかし、ベルの姿でなら歌えることに気づき、その場で作曲した歌、『歌よ』を歌い切ります。
翌朝、目が覚めると、ベルのフォロワー数がすごいスピードで増えていくのを目の当たりにしました。
ヒロちゃんがベルの歌を世界に配信し、声に注目した一部のアズたちが編曲を行い、ベルの知名度が瞬く間に上がっていたのです。
一晩にしてすずは、50億人が住む、仮想世界<U>で新しい歌姫として人気者になりました。
1億人規模のライブ当日、竜の乱入
数か月後、およそ1億人が集まるベルのライブに、竜の姿をしたアズが乱入してきます。
その竜を追いかけて、白い衣装を纏ったアズたちもライブ会場に飛び込んできました。
彼らはジャスティスという、<U>の秩序を守ろうとする自警集団です。
竜は3か月前、突如<U>の闘技場に現れ、アバターのデータが修復不可能になるまで痛めつけるという騒ぎを起こしたことから、彼らに目をつけられていました。
彼らのリーダー「ジャスティン」が、アズの正体がわかる(アンベイル)で、緑色の光線を竜に当てようとします。
しかし竜は、他のジャスティスを全て倒し、ライブ会場から逃げていきました。
竜の正体探し、心を通わせる二人
事件の翌日から、世界中で竜の正体探しが始まりました。ライブを台無しにされたヒロちゃんも、怪しい人物の特定に動きます。
竜の正体が気になるベルは、竜が城に住んでいるという情報をつかみ、一人訪れます。
ベルは竜の姿を見つけますが、「出ていけ!」と城を追い出されてしまいました。
一方、現実世界では、幼馴染で学校一のイケメンと言われている「しのぶくん」と、付き合っているのではないかと噂になり、周りの女子から集中砲火を受けます。
否定を繰り返すものの、学校のアイドル「ルカちゃん」に、しのぶくんとの恋を協力してと言われると、胸がざわついて自分の気持ちがわからなくなり、泣き崩れてしまいました。
ふさぎこむ気持ちを払拭するかのように、ベルはもう一度、竜の城を訪れます。
再訪もむなしく、またも竜に城を追い出されてしまうベル。
とぼとぼと城から帰っている途中、ジャスティン率いる自警団に、竜との関係について詰め寄られます。
もう少しでアンベイルされそうになったとき、竜が現れてベルを救いました。城に戻ったベルは竜に歌をプレゼントし、二人は一緒に踊り、徐々に心を通わせます。
明らかになる竜の正体
後日、ジャスティスたちはとうとう竜の城の場所をつきとめ、火を放ちます。
ベルは竜のもとに駆け付けますが、竜は「僕が耐えればすむことだから…、本当のこと言えなくてごめん。」と言い、城から落ちていきます。
すずはヒロちゃんは、ベルがプレゼントした歌をヒントに、50億のアカウントから竜の正体を突き止めます。
竜の正体は、父親から虐待を受ける兄弟の兄「ケイ」でした。
二人の境遇を知り、「助けるから居場所を教えて」と、画面を通して伝えるすず。
心を閉じているケイに、ベルである証明ができず、通話は切れてしまいます。
ベルではなく、すずの姿で歌う。そして、フィナーレ
もう一度ケイと繋がって信用を得るために、その場にいたしのぶくんは、ベルではなく、すずとして歌うことを提案します。
それしか方法が残されていないと腹をくくったすずは、再びログインします。
そして攻撃してきたジャスティンの手をつかみ、自らをアンベイル。50億のアカウントを前に、高校生すずの姿で歌います。
その瞬間、名前の知らない子どもを助けようとした母の気持ちが、すずにリンクします。
歌を聞いて、すずがベルだと信じたケイ。
再度ビデオ通話をつないできますが、父親によって、場所を伝える前に電話が切られてしまいます。
動画から聞こえてきた音を頼りに、音感の鋭いルカちゃんの助けで場所を突き止め、すずは一人で東京を目指します。
バスの車内で、父親にメッセージを送るすず。
今まで話すことを避けていた父から、「君は誰かに優しくできる子に育ったんだね」と言葉をかけられます。
『竜とそばかすの姫』ラストシーン・エンディング
父親から虐待を受けている兄弟、ケイ(竜)とトモを助けるため、夜行バスで東京にやってきたすず。
トモが家の外に出ていたことから、無事に二人と合流できます。
そこへ父親がやってきて、二人を奪い返そうとしますが、すずは二人をかばって守り切りました。
二人の無事を見届けた後、すずは高知に戻り、駅のホームで父親と晩御飯の約束をします。
その後、しのぶくん・ルカちゃんたちと河原を歩いて帰路につきます。
しのぶくんは、すずのコンプレックスがようやく直ったと安心し、肩の荷が下りて、「今後は普通に付き合える」と公言。
しのぶくんが好きなすずは、顔を赤らめます。
みんなから歌を聞きたいとせがまれたすずは、リアルの世界で、初めて「すず」として歌うのでした。
映画『竜とそばかすの姫』感想・結末
細田監督は、本作品でインターネットの肯定感を伝えたかったと言っています。
主人公「すず」が繋がるはずのなかった竜と出会い、母親と同じように、理由なく誰かを助けたいという思いに突き動かされました。
これは、まぎれもなく仮想世界<U>があったからです。
そういった意味では、監督の意向は十分伝わりました。
一方、インターネットの怖さも描かれています。
秩序を守るという大義名分をもとに、ベルを拘束するジャスティン。
見知らぬ子を助けて、自分の子供を残して死んだ母に対するバッシングなど、その攻撃性も目立ちました。
インターネットという利便性に隠れた、メリットデメリットについて、あらためて考えさせられます。
心地よい音楽に美しい映像、見ごたえ抜群の映画でした。映画を見に行く前にオマージュ元の『美女と野獣』を見ることにより、意識して両作を比較することができたと思います。本作の小説版には、映画版には書かれていないシーンや心情がありますので、ぜひお手に取ってほしいです。
レビュアー:きなこさんの感想・評価
消化不良の箇所
本作では、消化不良の箇所も見られました。
竜がベルのライブを邪魔したのには、何か大きな理由があるのでは!?と思っていたので、少し残念です。
父親からの虐待というバックボーンを考えると、その極端に抑圧された視点から、「1億人が楽しそうにしている様子がうらやましかった」、という子どもらしい理由になるのかもしれません。
しかし、傷を負った高校生が「仮想世界での出来事を通じて大きく未来に踏み出す」という部分は、存分に伝わる内容に仕上がっていたと思います。
『竜とそばかすの姫』6つの考察
ここからは、本作の考察ポイントをお楽しみください。
「美女と野獣の類似点」「母との重要なシーン」など、6つの考察を徹底解説していきます。
考察①『竜とそばかすの姫』『美女と野獣』二人のベルの物語
同作は「美女と野獣」がモチーフになっていると明かす細田監督。
たしかに『竜とそばかすの姫』の予告編では、『美女と野獣』を彷彿させるシーンが多くみられました。
細田守監督は、インタビューで次のように語っています。
「一番最初の発想が、インターネットの世界で『美女と野獣』をやったらどうなるか?ということだった」
引用:MANTANWEB
ベルのデザインを、ディズニーのスタッフが担当しているのも見どころの一つです。
劇中でも、ディズニーへのリスペクトを感じました。
オマージュ元になった『美女と野獣』のベル。『竜とそばかすの姫』に登場するベル(すず)。
二人の物語を考察していきます。
『竜とそばかすの姫』と『美女と野獣』の類似点①
『竜とそばかすの姫』の主人公すずは、<U>での名前が「ベル」であること。
『美女と野獣』の主人公の名前が「ベル」であること。
まずはここが類似点としてあげられます。
また、フードをかぶって頭を隠していた様子もそっくりです。
『竜とそばかすの姫』と『美女と野獣』の類似点②
『竜とそばかすの姫』の竜。『美女と野獣』の野獣。ふたりの類似点を解説していきます。
それぞれ外見が恐ろしく、性格も狂暴です。
しかし、その奥には優しさも秘めており、憎めないという点も同じです。
心に傷を負っている点も同様で、その傷に寄り添ってくれる「ベル」の存在もあります。
両作ともライバル役が登場します。『竜とそばかすの姫』には「ジャスティン」、『美女と野獣』には「ガストン」です。
ふたりは、ねじまがった正義を力ずくで振りかざす点が似ています。城に部下を引き連れて、攻め入ってくる展開もそっくりです。
両者とも、大衆を扇動して味方につける恐ろしい人物として描かれています。
竜と野獣には、両方とも召使の存在がありました。
『竜とそばかすの姫』ではかわいい姿をしたAIたち。『美女と野獣』ではルミエールやコグスワースです。
襲われているベルを、野獣が助けに来る展開も似ています。
これらの出来事を通して二人の距離が縮まり、関係性が深まっていくのです。
まったく同じ構図ですね。
このように、2つの作品は類似点が多いです。
しかし、伝えたいテーマは異なるように見えました。今度は相違点について触れていきます。
『竜とそばかすの姫』と『美女と野獣』の相違点
『竜とそばかすの姫』はベルと竜の対比を目立たせています。
スポットライトを浴びるベルと、皆から忌み嫌われる竜。
すずが勇気を出して周りと積極的に関わり、自らをさらけ出す中、竜も他人を信じてみたいと影響を受けたのです。
『美女と野獣』では、ベルと野獣の孤独感という共通点があります。
ベルは村で変わり者扱いされ、孤独を感じています。野獣も醜い姿と乱暴な性格から部屋に引きこもり、孤独です。
お互いの心の内を吐き出していく中で、二人は徐々に関係性を深めていきます。
『竜とそばかすの姫』はベルと竜の対比を目立たせ、トラウマを克服し、他人と関わる中で外に出ていく物語です。
『美女と野獣』は共通点である孤独感を元に、関係性を深めて愛に重きを置いています。
内にこもった、2人だけの世界の物語です。
この違いを、細田監督は意図的に描かれたように感じます。
考察②「なぜ<U>だと歌えたのか?」
母と一緒に歌うことが大好きだったのに、母の死がきかっけで歌えなくなってしまった「すず」。
しかし<U>の世界では、ベルとしてのびのびと歌うことができました。
<U>のシステムで、ボディシェアリング技術というものがあり、その人の隠された能力を引き出されたからではないか?という説明が、友人であるヒロからされています。
しかしそれ以上に、すずの心の変化が重要だと思われます。
ベルは、ピンクの髪が特徴的なスタイル抜群の美人です。
すずという存在を切り離し、悩みやトラウマから自らを一時的に解放することで、すずは<U>で歌うことができたのです。
しかし現実逃避をしているだけで、根本的なトラウマの解決にはいたっていません。
考察③ルカとの対比
劇中で「ルカ」という女の子が登場します。コンプレックスの塊であるすずとは、正反対の存在です。
ルカはクラスの人気者で、おまけにとても美人。太陽のように周りを照らし、いつもありのままの自分をさらけ出しています。
「ルカに比べて自分なんか」という描写も多く、すずにとっては比較対象になっていたようです。
しかし、ルカもありのままを出せていなかったことを知り、一方的に誤解していたことがわかりました。
勝手に作っていた完璧なルカ像が崩れ、一人の女子高生としてのルカと接することができるようになります。
「自分もルカもそんなに変わらないのかもしれない」という、すずの自信に繋がったのかもしれません。
考察④すずと竜の類似点
華やかな歌姫であるベルと、嫌われ者の竜。
周りからもてはやされたベルと、周りから悪者にされてしまった竜。
二人の対比は、とても強調されて描かれています。
コンサートのシーンが特に象徴的です。スポットライトを浴びるベルと、ジャスティス軍団に追いかけまわされる竜。
しかし、すずと竜ではどうでしょうか。
竜は皆から嫌われ、孤独で一人ぼっちです。
すずも友達はいますが、心の中では一人ぼっちだと感じています。だからこそ、竜の存在が気になったのでしょう。
やりとりを重ねているうちに、竜が何かに傷ついていること、乱暴者な普段とは違う優しい素顔に、「本当のことが知りたい。助けたい」と思ったのです。
そして、竜を助ける決意をします。
考察⑤小説版との比較「母との再会」
物語終盤、すずは素顔をさらして<U>の世界で歌います。
素顔を見せて信用してもらうためです。
その時、すずは母親が死んだときのことを思い出します。母親は対岸からずずを見つめ、笑っていました。一緒に遊んだ時と同じように。
母親が笑っているシーンは、映画版にはなく、小説版のみに描かれていました。
目の前の子を救い出そうとする、「自分」と「母親」が重なった瞬間でした。
あのとき母親は、なぜ見ず知らずの子供を助け出そうとしたのか?
その意味がわかり、ずすは本当の意味で母親と再会できました。
このシーンは、トラウマを克服する重要な場面でもあります。
考察⑥細田守監督が描きたかった「匿名性」のメリット・デメリット
『竜とそばかすの姫』において、主人公を成長させたのはバーチャル空間<U>の存在です。
この世界では、誰でも理想の自分を生きることが可能で、地味だったすずは歌姫へと変貌します。
しかし、<U>の世界も良いことばかりではありません。
匿名であるがゆえに起きる、さまざまなトラブルが描かれ、ネット社会の闇の部分にも触れられました。
最後の考察では、『竜とそばかすの姫』の裏テーマでもある、匿名性を解説していきます。
ネット社会における匿名性
ネット空間は誰であっても、自分の意見が発信できる自由な場所です。
たとえばTwitterやInstagramなどの「SNS」は、本名を公開する必要もなく、気軽に情報発信ができます。
この匿名性がインターネットの大きなメリットですが、近年になって問題点も指摘されるようになりました。
「ネット弁慶」という言葉もあるように、ネット上でのみ攻撃的になるユーザーも多くいます。
匿名になることで、日常では隠している本性が現れてしまうのです。
この「匿名と本性の関係」は、『竜とそばかすの姫』の中でも描かれました。
ユーザーの分身「As」は引き出された本性である
<U>には一般的なゲームで用いられている、キャラメイク機能はありません。
<U>に登録すると、最初に生体情報のスキャンがおこなわれます。
その際に送られた情報を基に、AIによって自動生成されるアバターが「As」です。
「As」の最大の特徴は、生体情報から導き出された、「隠された能力」を反映している点にあります。
ユーザー自身すら気がついていない才能を、引き出すことができるのです。
つまり「As」とは、良くも悪くもユーザーの本性を反映させた存在といえます。
劇中では、本性をあらわすことによる「メリット・デメリット」が描かれました。
ベルという仮面を被ったすず
「As」の匿名性によって、もっとも恩恵を受けたキャラクターが、主人公のすずです。
すずは地味な高校生で、人前で歌うこともできません。他人と距離を置き、好きな人に告白する勇気もありませんでした。
しかし、すずの「As」ベルは、世界的な歌姫になります。
すずの元来持っていた本性が引き出された結果、内向的な性格から表現力豊かな歌手に変貌しました。
ふたりは別人のように見えますが、歌声も表現力も、すべてすずの隠された才能です。
すずにとって、ベルとは仮面のような存在といえます。
素顔を隠し、別の自分を演じることが、引っ込み思案なすずには救いとなったのです。
このように、匿名性に救われた人物がいる一方で、マイナス面である「正義中毒」の要素も盛り込まれています。
「正義中毒」の危険性
最近では「自粛警察」という言葉も生まれたように、みずから罰をあたえようとする人も増えました。
インターネットの中では、各々のマナーによって秩序が保たれています。
しかし、中には自警団のような行動をするユーザーが存在します。
彼らは自身の中にある正義が正しいと思いこみ、少しでも秩序を乱すユーザーを攻撃。「大勢でひとりを叩く」という、最悪な状況に陥っていくのです。
『竜とそばかすの姫』では、竜を追う自警団「ジャスティス」が、正義中毒に陥ったユーザといえます。
「ジャスティス」がおこなう誹謗中傷
「ジャスティス」とは、<U>の秩序を乱すユーザーを勝手に罰している集団です。
彼らは竜を追っており、正体を暴くことに躍起になっています。
一見するとスーパー戦隊のようなビジュアルですが、彼らの行動原理は「正義中毒」そのものです。
竜との戦闘シーンでは、基本的に1対1で戦うことはありません。
たったひとりの竜を相手に、数十人で応戦。傷を負った竜に対しても、大勢で袋叩きにする非道な連中です。
この構図はSNSでの誹謗中傷を表現しており、徹底的に正義を執行する、「正義中毒」の醜さをあらわしています。
SNSをのぞくだけでは、炎上や誹謗中傷の実態は見えてきません。
細田監督は「アニメの戦闘シーン」という、わかりやすい形で、匿名性のデメリットを伝えているのです。
ジャスティンの本性
美しい歌声を引き出された「すず」とは異なり、醜い一面を露呈してしまったキャラクターがいます。
「ジャスティス」のリーダーでもある、ジャスティンです。彼はすずとは正反対のキャラクターとして、描かれました。
ジャスティンは正義を執行しているように見えて、明確な正義感を持っていません。
自己顕示欲の塊のような人間で、周囲に自分を認めさせるために、正義を実行しています。
竜を捕らえるためなら平気で他人を犠牲にする、今作におけるヴィラン(悪者)ともいえるキャラクターでした。
そんなジャスティンの本性を反映しているのが、彼の持つ武器「アンヴェイル」です。
「アンヴェイル」は、Asを本来の姿に戻すことができます。
つまり、匿名性を壊すことが可能になる、ネットユーザーの誰もが恐れる武器です。
この武器から考察できるのは、「ジャスティンが人の秘密を暴きたい」という願望を持っていることです。
また、最恐の武器である点からも、他人を服従させたい支配欲の強い人間であることが窺えます。
このように、『竜とそばかすの姫』では、匿名性がマイナス面に働いてしまう点も描かれました。
『竜とそばかすの姫』と『未来のミライ』は繋がっている
細田守監督作品の中で、『竜とそばかすの姫』ともっとも密接な関係にあるのは、『未来のミライ』です。
どちらの作品も、込められた「テーマ/ストーリー」はまったく異なります。
しかし、『未来のミライ』に対するネットユーザーの反応が、『竜とそばかすの姫』に活かされているのです。
『未来のミライ』は激しく賛否両論が巻き起こった作品でした。
海外では高く評価され、アカデミー賞にもノミネートされた一方、国内では少なからず批判を受けています。
その際に細田守監督が受けた、称賛や批判の声が、そのまま『竜とそばかすの姫』に使われました。
たとえばベルが初めて世に出て、世界中の「つぶやき」が流れる場面。ベルを見たユーザーの反応は、批判の声も多く、最初から歌姫にはなれませんでした。
しかし徐々に称賛の声が多くなっていき、<U>を代表する歌手に成長していくのです。
匿名の声はよいものばかりではありませんが、細田守監督の創作意欲に繋がったのではないでしょうか。
細田守監督が自身を投影したキャラクター
『竜とそばかすの姫』には、細田監督自身が、キャラクターに投影されたと思われるシーンがあります。
すずが親友のヒロちゃんに、ネット上で叩かれていることを相談するシーンです。すずはネットのネガティブな意見に反応し、明らかな落ち込みを見せました。
しかし、ヒロちゃんは批判の声を当然のものと考え、「気にしても仕方がない」と諭すのです。
このシーンでのヒロちゃんのセリフは、そのまま細田監督の言葉だと受け取ることができます。
細田監督は『未来のミライ』で批判を受けましたが、自身の作風を変えることはありませんでした。
どちらも最後まで自分を曲げなかったことが、結果に繋がりました。
もしヒロちゃんの代わりに、細田監督がすずの隣にいたとしても、まったく同じ言葉を投げかけたでしょう。
『竜とそばかすの姫』『サマーウォーズ』との比較・共通点
『竜とそばかすの姫』の関連作品として挙げられるのは、2009年に公開された『サマーウォーズ』です。
この2作品は似ているのか?共通点を解説していきます。
物語の舞台が「仮想世界」
『サマーウォーズ』では、OZ(オズ)という仮想世界が舞台になっていました。
アカウント数は<U>の5分の1ほど(10億人)でしたが、AIを相手に花札を挑むという設定はとても新鮮でした。
今回の仮想空間は<U>という名前で、キャラクターの動き、アバターのデザインなど、かなりクオリティがアップしています。
仮想世界に住むくじら
細田作品にはくじらの登場が多いです。
『サマーウォーズ』での仮想世界OZでは、守り神として「ジョン」と「ヨーコ」というくじらが2頭登場しました。
『竜とそばかすの姫』でも、ベルは冒頭で空飛ぶクジラに乗って登場します。
彼女が歌う主題歌「U」にも、「空飛ぶクジラに飛び乗って」という歌詞があるほどです。細田監督はクジラを何かの象徴として登場させているのかもしれません。
『サマーウォーズ』と『竜とそばかすの姫』決定的な違い
共通点が多い2作品ですが、決定的な違いもあります。
それは、脚本を細田監督が手掛けているか、否かです。
『サマーウォーズ』は奥寺佐渡子さんが脚本を書いており、万人にウケる作風でした。
しかし『バケモノの子』以降の作品では、細田監督が単独で脚本を書いています。
その結果、良くも悪くも監督の色が濃くなり、エンタメ性よりも、芸術性に舵を切ったように感じました。
今作は『未来のミライ』ほどではありませんが、やはり監督の伝えたいことを、直で描いた作品といえます。
現実のネット社会を具現化した映像表現は、褒め言葉しか見つかりません。アニメーションも日本最高峰です。
その一方で、脚本に関しては、いつものように若干の物足りなさを感じた作品でした。
『竜とそばかすの姫』主題歌は中村佳穂の「U」
公開前、予告CMから話題を集めている主題歌の「U」。
冒頭シーンから流れ、観客を一気に作品の世界に引き込んでいきます。
作曲はKing Gnuのリーダー「常田大希」と、millennium paradeが担当しました。
リズミカルなドラムの音、テンポのいいラップ、そして独特の重厚感を持つベルの歌声があわさり、<U>という壮大な世界観が表現されています。
『竜とそばかすの姫』では、主人公すずが心の傷を癒し成長していく過程において、歌が重要なファクターとなっています。
ベルが歌姫であるという先入観をなしにしても、十二分に作品の魅力を引き立てている主題歌です。
『竜とそばかすの姫』の聖地は高知!

本作の舞台は高知県内!
SNS(Twitter )を見ると、高知のみなさん盛り上がっていますね。
竜とそばかすの姫の聖地、浅尾沈下橋に行ってきた〜🌟
駐車スペースは少なめ、橋付近の道はあまり広くなく、昔からあるありのままの自然がそこにありました。
ちょうど移動スーパーが来た時間だったので、地元の方の生活の様子を少し見る事が出来ました☺️
次は晴れた日に行きたい☀️ pic.twitter.com/wlDvIyh0He— きんたろー (@aokintr) July 12, 2021
「いの町のJR伊野駅(高知県吾川郡いの町)」「浅尾沈下橋(鎌井田地区と浅尾地区をつないでいる橋)」など、すでにわかっているロケ地も多いので、聖地巡礼される方がたくさんいそうです!
観光協会や現地の方の盛り上がりを見ていると、聖地巡礼したくなります。
スタジオ地図10年間の集大成である『竜とそばかすの姫』
『竜とそばかすの姫』は心に傷を負ったすずが、仮想空間に関わることで、前向きになれる物語です。
細田監督は彼女の作品を通して、インターネットの肯定感を伝えたいと語っています。
技術革命が起こってからたった25年。コロナ禍でより身近になったツールは、まだまだ私たちに希望や夢を与えてくれる。
参考:YouTube
本作品は、数々の青春作品を手掛けてきた細田監督だからこそ生み出せたものであり、彼とスタジオ地図との10年間の集大成と言えるでしょう。
大迫力のスピード感と圧巻のアニメ映像を、ぜひ劇場で直に体験してみてはいかがでしょうか。
細田守監督の映画作品紹介
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[caption id="attachment_9606" align="aligncenter" width="640"] (C)2015『バケモノの子』製作委員会[/caption]映画『バケモノの子』。2015年7月11日[…]
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本記事の制作に関わった方
なお
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きなこ
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スルメ
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