
2019年7月19日に公開された本作は、『君の名は。』に引き続き大ヒットとなりました。
- 映画のあらすじや概要
(今すぐ読むならこちら) - 『天気の子』のネタバレ紹介
(今すぐ読むならこちら) - セカイ系の視点から考察
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「あらすじ」だけ知りたい方は、「作品概要」と「見どころ」だけご覧ください。そこまでは「ネタバレなし」の紹介です。
「ネタバレありで読みたい!」という方は最後までご覧いただき、動画フルで視聴したい方は、以下ページで無料視聴の方法を解説しています。
[caption id="attachment_2976" align="aligncenter" width="640"] (C)2019『天気の子』製作委員会[/caption]新海誠監督の映画『天気の子』。本作を視聴できる[…]
映画『天気の子』の作品概要

「これは、僕と彼女だけが知っている、世界の秘密についての物語だ」
予告動画ではこのようにはじまり、音楽と世界観に魅せられる映像となっています。
主人公は、オカルト雑誌のライター業に勤しむ高校生の「森嶋帆高」。
そして、天候を変える力を持っている「天野陽菜」。
舞台は近未来の東京で、天候の調和が狂っていく時代です。
“100%の晴れ女”である陽菜が、世界を変える出来事を起こしていきます。
前作『君の名は。』に引き続き、本作でもRADWIMPSの音楽が世界を演出しています。
より進化された映像美と合わせてお楽しみください。
公開日 | 2019年7月19日 |
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上映時間 | 113分 |
興行収入 | 140億円超え |
監督 | 新海誠 |
音楽 | RADWIMPS |
関連作品 | 新海監督・映画作品一覧 |
キャスト | 醍醐虎汰朗 森七菜 小栗旬 本田翼 その他(キャスト一覧はこちら) |
予告動画 (YouTube) | 『天気の子』予告編 |
動画視聴 | 動画配信サービス |
公式サイト | 『天気の子』公式 |
ロケ地 | 『天気の子』聖地巡礼 |
映画『天気の子』の見どころ ※ネタバレなし
『天気の子』でも、再び同じような選択肢があるキャラクターに突きつけられます。『雲のむこう、約束の場所』から15年がたち、再び提示される答えようのない問題。
キャラクターの選択は『雲のむこう、約束の場所』と同じなのか、それとも違う展開があるのか。その結論に、新海監督の歩みを見れるかもしれません。
陽菜の懐具合を反映し、安い材料ばかりを使った料理ですが、とてもおいしそうです。3人の親睦が深まる、重要なシーンでもあります。
実はこのチャーハン、レシピ動画サービス「クラシル」がレシピを提供したものです。クラシルのホームページには、「のり塩すごもりチャーハン」として作り方が公開されています。
このチョーカーがどうなっているのか、ちょっと注目してみてください。風景やさりげないシーンなど、それぞれに意味を込めている新海作品。
このチョーカーも、「あることの象徴」として見えてくるのではないでしょうか。
『天気の子』ネタバレ・あらすじ解説!
それでは、本作の内容をネタバレありで知りたい方は引き続きご覧ください。
本編のネタバレやラストシーン・エンディングを紹介していきます。「ネタバレは困る」という方は、ここまでにしてください。
物語のはじまりは陽菜の祈りから

雨が降る中、雲間から一筋の光が廃ビルの屋上を照らしていました。
そこへ吸いこまれるかのように、光さす廃ビルの屋上へ向かう陽菜。
そこには赤い鳥居があり、何かを祀った小さな神社のようなものがありました。
陽菜はそこで母の病が治り、ともに青空の下を歩けるように祈ります。
するとどうでしょう。陽菜は突然広大な青空の真っただ中にいたのです。
目前には水滴のような、魚の大群のようなものが漂っている幻想的な風景が広がります。
家出少年の帆高(ほだか)は神津島から東京へ

雨を告げる船内放送で人々が船内に移動しますが、帆高は甲板へと飛び出します。
すると突然、大雨が降ってきます。
圧倒的な水量に船が傾いて、帆高が船から落ちそうになるのを、須賀が助けてくれました。
フェリーが東京に到着。帆高は「困ったら自分を頼れ」と須賀から名刺を渡されます。
街で仕事を探す帆高ですが、身分を証明できるものを持っておらず、仕事探しは難航。
マンガ喫茶を後にし、東京の街をフラフラと歩く帆高に警察官が声をかけますが、補導を恐れて逃げ出します。
なんとか警察官から逃げおおせた帆高。
ビルのエントランスで息をひそめているうちに眠ってしまいますが、その後にビルの住人から声をかけられて追い出されてしまいます。
立ち去ろうとしたときにゴミ箱をひっくり返し、その中から紙袋に入った拳銃を発見。
本物だとはつゆほども思わなかった帆高は、それをバッグにしまい込み、ビルを後にします。
手持ちのお金が底をつきそうになる帆高。
3日連続で夕食をファーストフード店のポタージュスープで済ませていた帆高に、そこでアルバイトをしていた陽菜が「内緒ね」とビッグマックを差し出します。
陽菜のくれた夕食を味わって行動力を取り戻し、帆高は須賀のもとへ行きます。
須賀圭介の会社で働くことになった帆高
須賀の会社に訪れた帆高。須賀の仕事はフリーライターでした。今回の調査対象は「100パーセントの晴れ女」について。
調査を手伝った帆高の仕事ぶりを認めた須賀は、帆高を正式に会社の一員として採用します。
「100パーセントの晴れ女」と帆高
会社の雑用をこなしながら東京で暮らす帆高。
そんなおり、帆高は男に水商売で働くよう勧誘されて困惑している陽菜を見つけます。
ハンバーガーショップで夕飯を奢ってくれた少女だということに気いた帆高は、陽菜をつれて走り出しますが、水商売の男に追いつかれてしまいます。

暴力をふるおうとする男に向かい、帆高はビルのゴミ箱から拾った拳銃を男に発砲。
大きな銃声音に、それが本物だと気づき唖然とする帆高。幸い銃弾は外れていました。
陽菜は帆高をあの廃ビルへつれていきます。
陽菜は「殺人を犯していたかも!」と責め立て、事の重大さに気づき拳銃を放り投げてうつむく帆高。
そんな帆高に、陽菜はバイトをクビになって稼ぎたかったのだと吐露。
帆高を屋上にあるあの赤い鳥居の小さな神社へ連れていきます。
陽菜が神社の前で祈ると、やむ気配すらなかった雨が薄れて日光が差し込みました。
調査対象とは陽菜のことだったのです。
晴れ女ビジネスがスタート!
「帆高・陽菜・陽菜の弟の凪(なぎ)」を交えた3人で、天気を晴れにする商売を始めます。
最初の仕事はフリーマーケット会場を晴れさせることでした。
なんとか会場を晴れにすることができた一行は2万円の謝礼を貰います。
その後も次々と依頼をこなし、ネット上で一躍時の人となっていきます。
そんなとき、立花冨美から「夫の初盆の日を晴れにしたい」と依頼が来ます。
冨美のもとを訪れた一行。そこで帆高は、冨美の孫(瀧)から「陽菜の誕生日に何かあげたらどうか」と言われます。
意気込んでショッピングモールのアクセサリー売り場へ向かう帆高。指輪でいいのか思いあぐねている帆高に、ショップ店員は「大丈夫!」と励まします。
帆高はその言葉に勇気づけられ、最後の依頼が終わったあとに渡すつもりでいました。
最後の依頼は、須賀の娘「萌花(もか)」のため
テレビに陽菜の映像が流れてしまい依頼が急増。陽菜の疲労困憊した様子に帆高は気づいていました。
2人とも、天気を変える商売の休業を考えていたのです。
最後の依頼の主は、なんと自分たちがよく知る人物「須賀」でした。依頼内容は須賀の娘「萌花(もか)が行く公園を晴らして欲しい」とのことだった。
難なく依頼をこなし、須賀たちと一緒に夕飯を楽しむ一行。
帆高と陽菜が2人きりになれるチャンスが訪れます。
しかし、お互いに何かを言おうとしてチャンスを逃したそのとき、強い風が2人の間を駆け抜けました。いきなり目前から消える陽菜。
陽菜を探す帆高の上空から声が聞こえます。
陽菜は空中にいました。
それだけでなく、陽菜をとりまく水滴は陽菜の周りを舞い、陽菜の体は透けていました
「晴れ女」の力を手に入れたきっかけ
やがて地上に着地した陽菜は、力を手に入れたいきさつを話します。
1年前「廃ビル上にある赤い鳥居の小さな神社でその力を得たのだ」と陽菜は言います。

陽菜のアパートにてシャワーをあびる帆高。そのアパートに警察がやってきます。
帆高の保護者から行方不明者届けを提出されており、捜索が行われていたのです。
しかも銃を発砲した映像が監視カメラに映っていたため、銃刀法違反の容疑もかかっていました。帆高に隠れるよう促す陽菜。
弟との2人暮らしに目をつけられながらも、なんとか警察を追い払うと須賀から凪(陽菜の弟)が送迎されてきます。
須賀の車に乗り込む帆高。須賀には帆高誘拐容疑がかけられており、「二度とうちの会社には来るな」と言われてしまいます。
アパートから移動する3人
部屋に戻った帆高が観たのは、陽菜と凪がアパートから出ようとする様子でした。
陽菜は捕まる前に故郷へ帰るように帆高に勧めますが、帆高は陽菜たちと逃げたいと言います。
豪雨で冷え込む東京。
雨足はとどまることを知らない。3人は乗り込んだ電車が悪天候で運転見合わせになってしまい、しかたなくホテルを探しますが、どこも満室で泊まれません。
途中で警察に捕まりそうになりながらも陽菜の力で乗り切り、ラブホテルに泊まることになる3人。
選択と邂逅 2人の運命は
逃亡の末に見つけたラブホテルでつかの間の休息を楽しむ3人。
日付が変わるのを待って、帆高は陽菜に誕生日のプレゼントを渡しました。
ですが、幸せそうな陽菜の口からは信じられない話が紡がれます。
陽菜は人柱で、自分の存在を犠牲に「この異常な天気をなおすことができるのだ」という。
その話を聞いた帆高は、陽菜を両腕で包み込みます。

しかし、その思いは届かず、翌日になって陽菜がいなくなって焦る帆高。
帆高は陽菜を探そうとしますが、突然やってきた警察に捕まって連れていかれます。
その途中に青い空を見た帆高は「陽菜が人柱になったんだ」と悟りました。
警察から逃げ出す帆高
帆高は陽菜と再会したかった。思い当たる場所に気づいた帆高は、なんとか逃げだしますが、警察をまくのは容易ではありません。
そこに、凪から連絡を受けた須賀の会社の夏美がバイクで現れ、帆高はそれに同乗します。
しかし、行きついた先には須賀がいました。
帆高の行動を制止する須賀の声は、帆高へ届きません。拳銃を手にして強行突破をしようとする帆高ですが、すぐに警官に捕まってしまいます。
「陽菜に会いたい」と叫ぶ帆高の言葉が心に響き、助け船を出す須賀。
『天気の子』ラストシーン・結末
ボロボロの非常階段をなんとか登り切り、行きついた赤い鳥居の神社で祈る帆高。
すると、帆高は遥か空の彼方にある草原にたどり着きます。
その場所には、陽菜もいました。陽菜の手をにぎり、その存在を確かめる帆高。空にはうっすらと雨の気配が。
帆高は陽菜を救うことできましたが、その代償として雨が降り続ける世界となります。
そして3年の月日が経過。帆高は、故郷で高校生活を送って18歳になり高校を卒業。
東京は浸水して、そのほとんどが水の中に埋もれてしまっていました。帆高はまた足を運びます。空から取り戻した陽菜に会うために。
ネタバレ!『天気の子』と『君の名は。』のコラボシーン

ただ、このコラボシーンは注意して観ないと見逃してしまうことがあります。
では、どこのシーンだったのか?「見逃した!」という方、「もしかしてあのシーン?」と再確認したい方のために、登場キャラと出演シーンについて紹介します。
立花瀧 (たちばなたき)の登場シーンはどこ?
天気を晴れにするビジネスの依頼主である立花冨美。
そこへ行った際に現れる青年が瀧です。
帆高に陽菜への誕生日プレゼントを提案しています。立花冨美とは祖母・孫の関係です。
宮水三葉 (みやみずみつは)の登場シーン?
アクセサリー売り場で、帆高が陽菜への誕生日プレゼントを選ぶシーン。
ここで帆高の対応をしたショップ店員が三葉です。名札に「Miyamizu」と記されています。
宮水四葉(みやみずよつは)の登場シーンはどこ?
陽菜が自らを犠牲にして晴れにした日、青空を喜ぶ女子高生3人がいます。
そこで空を指差しているツインテールの子が四葉です。
SNSでは「四葉どこにいた!?」と登場シーンを見逃した方が大勢いました。これから観る方は注意してください。
勅使河原克彦 (てしがわらかつひこ)&名取早耶香(サヤちん)の登場シーンはどこ?
テッシー(勅使河原克彦)とサヤちん(名取早耶香)、この二人は見つけやすい場面にいます。
晴れ女ビジネス最初の仕事場であるフリーマーケット。この会場の観覧車内に二人がいます。後ろ姿ではありますが、気づいた方も大勢いました。
『天気の子』考察①セカイ系の視点
過去作も含め、新海作品の主人公たちが選んできた「世界」と「彼女」の二択。
『天気の子』を、「セカイ系」という観点から分析していきたいと思います。
「セカイ系」という視点で、『天気の子』のエンディングは新しい形となっているのでは?
その考察について解説していきます。
「セカイ系」の作品とは
そもそも「セカイ系」とはどういう作品のことをさすのでしょうか?
Wikipediaによると、この言葉ができたのは2000年代前半のようです。
定義はあいまいで、人によって意味も使い方もそれぞれ変わってきます。
今回の記事ではおおむね、「主人公の行動が現実世界の大きな情勢・危機に直結している」という意味で使っていきます。
「セカイ系」作品の具体例
「セカイ系」は『新世紀エヴァンゲリオン』の放映後に見られるようになってきた作品群、との指摘もあります。
「セカイ系」の具体例として、Wikipediaでは以下の作品があげられています。
- 『最終兵器彼女』
- 『イリヤの空、UFOの夏』
- 『ブギーポップは笑わない』シリーズ
そして同じように「セカイ系」の代表例として挙げられているのが、新海監督の劇場デビュー作でもある『ほしのこえ』です。
ただ、新海監督自身はツイッター上で下のように発言しています。
最近はもう本を読むくらいしかないわけですが、中沢新一・山極寿一『未来のルーシー』はとても面白く読みました。僕の仕事でいえば「天気の子はなぜセカイ系で云々」とか言われると「いや単に実感で描くとそうなるんだよ!」と言いたくなるのですが笑、そういう気分もずっとクリアに教えてくれます。
— 新海誠 (@shinkaimakoto) April 22, 2020
意図的に「セカイ系」の作品を作ろうとしているのではなく、「自然にそうなっていく」ということを伝えているのでしょうか。
「セカイ系」に分類できる新海作品

新海監督の劇場用作品は現時点で7本あります。
(参考:新海誠監督のアニメ映画作品一覧)
そのうち「セカイ系」に分類できそうなのは、以下の4作品です。
- 『ほしのこえ』
- 『雲のむこう、約束の場所』
- 『君の名は。』
- 『天気の子』
各作品がどのような「セカイ系」の作品だったのか、解説していきましょう。
劇場デビュー作『ほしのこえ』

『ほしのこえ』は新海監督の名前を有名にした「初めての劇場用アニメ作品」です。
脚本・作画・監督など、音楽以外のほぼ全てを新海監督が手掛けたことで話題を集めました。
この作品は、地球外知的生命体「タルシアン」の脅威にさらされている日本が舞台です。
人類が絶望的な危機にある中、主人公とヒロインは「地球」と「宇宙」で離れ離れになります。
ヒロインが、タルシアン調査隊の選抜メンバーに選ばれたためです。
[caption id="attachment_6190" align="aligncenter" width="640"] (C) 新海誠 / Comix Wave[/caption]映画『ほしのこえ』。今や有名となった新海誠[…]
『天気の子』と類似性もある『雲のむこう、約束の場所』

「セカイ系」という視点で見た場合、『天気の子』ともっとも似た構図を持っているのが、2作目となる『雲のむこう、約束の場所』です。
今作でのヒロインは、「世界の破滅を防ぐ存在」として、ある場所で「ずっと眠っている」状態です。ヒロインが目を醒ますと、世界は消滅してしまう危険性があります。
「ヒロインを目覚めさせるか」
「人身御供になってもらい続けるか」
主人公には、この二択が提示されます。
そして主人公は、「ヒロインを目覚めさせる」を選択します。
その結果、北海道の一部は消滅しましたが、「ある手段」を用いて世界消滅を回避しました。
2016年の『君の名は。』で、国民的アニメ監督となった新海誠監督。今回紹介するのは、同監督の2作目となる映画『雲のむこう、約束の場所』です。デビュー作『ほしのこえ』が約30分の短編アニメーション映画であるのに対し、『雲の[…]
選択に悩む必要がない『君の名は。』

『君の名は。』では、主人公はヒロインの命をすくおうと、隕石落下の被害を最小限に食い止めるために行動します。
隕石落下はすでに起こっている出来事ですが、ある方法を試みて回避しようとするのです。
「ヒロインをすくうこと」が、そのまま「大災害から多くの人を助ける」ことに繋がっています。
ここでは相反する事柄でないため、主人公は迷うことなく行動に移っています。
新海誠監督の代表作『君の名は。』ビッグヒットがなかった日本映画界の歴史を塗り替え、本作は250億円の大ヒットを記録しました。2016年8月26日に公開され、全世界でも約4億ドルの興行収入を記録したモンスター映画です。[…]
『天気の子』終盤で提示される二択

そして『天気の子』です。
劇中の終盤、ヒロイン陽菜は「天気の巫女」として人柱になる危機がおとずれます。
陽菜を助けたら晴天は無くなり、その地域では雨が降り続けることになります。
物語の舞台である東京は、水没してしまうかもしれません。
主人公の森嶋帆高には、2つの選択肢が提示されます。
「東京を犠牲にして、陽菜を助けるか」
「陽菜を犠牲にして、東京をすくうか」
過去の新海作品を参考にすると、主人公の行動は「東京を犠牲にして、陽菜を助ける」です(そうしないとドラマにならないせいもあるでしょうが…)。
そして実際、『雲のむこう、約束の場所』の主人公がそうであるように、『天気の子』主人公の帆高も「世界」より「ヒロイン」を選択します。
そして変わる「世界」
『雲のむこう、約束の場所』と『天気の子』が違うのは、ここからです。
『雲のむこう、約束の場所』では世界消滅する危険性があっても、「ヒロインを目覚めさせる」ことを選択します。
しかし、ヒロインを選択しながら世界の消滅を防ぐことにも成功しています。
つまり結果的には、「どちらも選んだ」ことになるわけです。
ところが『天気の子』ではそうなりません。
ある意味、『雲のむこう、約束の場所』における「世界の結末」は、ご都合主義的な要素もありました。
これは、今までの新海作品とは違う結末です。
「恋愛感情」を優先したことにより、世界に害が及んだことを描写。
新海作品が、また新たな一歩を踏み出した印象を受けました。
「世界」と「彼女」の二択を提示されて、ヒロインを選ぶのは美しいです。
ただし、過度な恋愛賛歌や安っぽい感動ものに陥ってしまう危険性もあります。
『天気の子』はラストシーンによって、その危険を回避しました。この視点(セカイ系の視点)から、『天気の子』を見直すのも面白いかもしれません。
今後はどのような「恋愛」の面を描くのか

新海監督は「恋愛」のイメージが強い監督です。
『天気の子』でも、青春期の一途でみずみずしい恋愛が描かれています。
一方で、東京を水没させることで、ただ美しいだけではない「恋愛」の別な面も見せてくれました。
今後はどんな選択肢を主人公に突き付けて、そしてキャラクターはどのような行動を選ぶのか?今後の新海作品にも注目したいです。
『天気の子』考察②「帆高と圭介」2人の共通点
圭介は帆高と出会った当初の段階から、多少なりとも昔の自分を重ねていました。
身元も分からない帆高を雇ったのも、「家出同然で東京に出てきた帆高に、かつての自分を重ねていた」という理由があったからではないでしょうか。
そして懸命に編集の仕事をこなしていく帆高の姿に、「昔の自分を見た」ことは想像に難くありません。
これが帆高と圭介、1つ目の共通点です。
完全な「大人」ではない圭介
帆高はまだ子どもです。
一方、圭介も年齢的には大人でありながら、娘のことで悩んでいるなど成熟しきっていない部分も見えます。
普段は大人として行動していますが、「時たま若い頃の気持ちに戻ることもある」不安定な存在です。
大人ではあるが、まだまだ悩みのある人間。
その「不安定さ」を踏まえながら『天気の子』を見ると、最後に圭介がとる行動も理解しやすいのではないでしょうか。
普段は大人として振る舞っていても、最後は帆高に昔の自分を重ねて、心の中に残っていた「若さ」を優先させるのです。
帆高と圭介、2人の決定的な共通項
もともと同じ経験があった「帆高と圭介」。
物語が終盤になるにつれ、もう1つの決定的な共通点が生まれます。
それは「愛する人の喪失」です。圭介は、実家の反対を押し切ってまで結婚した妻を失っています。
しかも愛する妻の忘れ形見である、娘・萌花とも同居できていません。
一方帆高も、心を通わせた少女・陽菜を失っています。「天気の巫女」として、人柱となって消滅してしまったのです。
圭介の妻も「天気の巫女」だった!?
『天気の子』ファンの間では、圭介の亡くなった妻が実は陽菜と同じ「天気の巫女だったのではないか?」という説が流布しています。
それほど帆高と圭介の類似性に気づいたファンが多いということでしょう。
劇中では明記されていないので、この説が当たっているのかはわかりません。
終盤で変化する圭介の心情
帆高は陽菜と出会った時、拳銃を入手・発砲しています。
そのために警察から追われる立場となってしまい、圭介は帆高を事務所から解雇。
ちょっと薄情な気もしますが、これは大人の判断としては当然のことです。
ただ、懸命に陽菜を取り戻そうとする帆高を見ているうちに、圭介の心情は変化します。
圭介にとってそれまでの帆高は、「かつての自分と似ている境遇の少年」です。
しかし、いなくなってしまった陽菜を必死で探す帆高は、もはや過去の自分とは違います。
「自分がなりたかった姿」であり、さらには「自分が目指すべき未来の姿」でもあるのではないでしょうか。
帆高に触発される圭介
圭介の妻は亡くなっているので、取り戻すことはできません。
しかし、今でも妻を愛している描写が、劇中で何回も描かれています。
圭介の妻を生き返らせることはできませんが、帆高はまだ陽菜を取り戻すチャンスがあります。
そこに過去の自分を重ねて、「帆高には成功してほしい」と思うことは、しごく自然な心情です。さらには、現在も取り戻せていない娘の萌花がいます。
帆高が陽菜を探し出すことができたら、自分も萌花といっしょに住めるようになるのではないか・・・
そんな希望を帆高に託すのは当然のことではないでしょうか。
こういった理由から、当初は「大人」として帆高を解雇した圭介も、最後では警察に逆らっているように思えます。
サブキャラクターにもドラマがある『天気の子』
圭介は当初、「帆高にとっての大人モデル」として登場しました。
しかし物語の終盤、その構図は逆転して、帆高が圭介にとっての「なりたかった、そして娘といっしょに暮らすためになるべきモデル」となります。
主人公である帆高と陽菜だけではなく、サブキャラクターの圭介にもしっかりとしたドラマが用意されています。
『天気の子』には、要所要所で考察したくなるポイントがあります。本記事で紹介した以外にも考察点があるので、詳細は以下ページをご覧ください。
[caption id="attachment_3098" align="aligncenter" width="640"] (C)2019『天気の子』製作委員会[/caption]新海誠監督の7作目となる劇場用アニメーション作品『[…]
『天気の子』の感想(ネタバレあり)
この作品のキーになっている要素の1つ。
それが「年齢」です。
帆高や陽菜の周囲では、よく年齢が話題に上がります。
さらに「年齢」が壁となって仕事先を見つけられなかったり、須賀圭介からは半人前として「少年」と呼ばれていました。
また、陽菜が年齢をごまかしていたり、年下である凪を目上のように呼んだりと、「年齢」の基準があやふやになったりもします。
一方で、「大人」である須賀圭介や須賀夏美が、冷静な判断ではしないような行動をとったりも。
「子ども」である彼・彼女らが、そして「大人」がどのような行動をとるのか・・・
それもこの作品の見どころです。
関連・類似作品との比較や共通点
『君の名は。』の大ヒットに続いて作られた『天気の子』。この作品では、それまで新海作品に関わっていたスタッフが参加しています。
まず音楽のRADWIMPS、キャラクターデザインの田中将賀さんは『君の名は。』からの連続参加。美術監督の滝口比呂志さんも、かつて『言の葉の庭』で同職を務めていました。
一方、『機動戦士ガンダム THE ORIGIN』シリーズなどの実績がある田村篤さん。キャラクターデザイン・作画監督としてメインスタッフに加わっています。
様々なスタッフが結集し、『君の名は。』に負けないエンターテインメント作品を作り上げました。
RADWIMPSと奏でる映画の世界観

前作同様に、RADWIMPSの曲が見事にマッチしていました。映像も綺麗なので、背景画と音楽だけでも楽しめる映画となりました。
窓に付着した水滴の様子。路地裏の描写。細かい所が濃厚に描かれていている背景は、新海ワールドを存分に楽しめます。
天気の子の結末は「意見が分かれるかも」という新海監督。
RADWIMPSの野田洋次郎さんも「わかりやすい部分、賛否ある攻めた部分」の両方があると語っています。
「結局、この物語は帆高と社会全体が対立する話なんだ。」
新海監督が公式パンフレットそう語るように、現実世界とリンクする部分を感じられました。
作中で「天気なんて狂ったままでいいんだ!」という帆高のセリフがあります。
このセリフには、「自然の力は人の手ではどうすることもできない」という、現実世界との葛藤が込められているのではないでしょうか。
英題である「Weathering With You」。これは何かを乗り越えるという意味を持っているので、このタイトルが本作を物語っているように感じます。