
2009年8月1日に公開された映画『サマーウォーズ』。
監督は、日本アニメ界が誇るヒットメーカー細田守さん。
2018年に公開された『未来のミライ』では、アカデミー賞長編アニメ映画賞にノミネートされたことでも話題を集めました。
今回の記事では、映画『サマーウォーズ』を紹介し、以下の内容を解説していきます。
- 映画のあらすじや概要
(ネタバレなしで読むならこちら) - 『サマーウォーズ』のネタバレ紹介
(ネタバレありで読むならこちら) - ラストシーンとエンディング
(結末だけ読むならこちら) - 考察や声優(キャスト)
(考察だけ読むならこちら)
「あらすじだけ知りたい!」という方は作品概要までにしていただき、「ネタバレありで読みたい!」という方は、ぜひ最後までご覧ください。
映画『サマーウォーズ』の作品概要

「これは僕に起こったとんでもない夏休み」
予告動画は、主人公・小磯健二の一言によってはじまります。
インターネット上で世界中の人々がアバターを介してコミュニケーションを取れる仮想世界「OZ」。そんなOZがAIによって乗っ取られ世界中が大混乱に!
近未来感に溢れる設定ながらも、ストーリー全体は夏希(なつき)の田舎が舞台です。SF映画というよりは、「家族のあたたかさ」「人と人との繋がり」を感じさせてくれる内容になっています。
「田舎で感じられる風景」「大家族な雰囲気」を背景にしながら、人と人との絆、家族の温もりを感じさせてくれる素晴らしい作品です。
公開日 | 2009年8月1日 |
---|---|
上映時間 | 1時間55分 |
興行収入 | 16.5億 |
監督 | 細田守 |
主題歌 | 山下達郎「僕らの夏の夢」 |
音楽 | 松本晃彦 |
キャスト (声優) | 神木隆之介 桜庭ななみ 横川貴大 谷村美月 富司純子 斎藤歩 |
キャラクター デザイン | 貞本義行 |
作画監督 | 青山浩行 藤田しげる 濱田邦彦 尾崎和孝 |
美術監督 | 武重洋二 |
予告動画 (YouTube) | 『サマーウォーズ』予告編 |
公式サイト | 『サマーウォーズ』公式 |
映画『サマーウォーズ』の見どころ※ネタバレなし
『サマーウォーズ』で描いているテーマに「家族」があります。しかも1家族ではなく、家長であるおばあちゃんの誕生日を祝うために親族一同が集まった大きな「家族」。
そして、わき起こった大きな問題に対し、個人ではなく「大家族」で立ち向かっていきます。『サマーウォーズ』では、理想的な「家族」を描くことで、素敵な人間関係を提示しています。
『サマーウォーズ』における注目ポイントの1つは、インターネットを駆使した電脳戦と、自然あふれる風景のマッチングです。
主人公の小磯健二が訪れるのは、自然がいっぱい残る長野県上田市。しかしもう1つの舞台となる場所は、正反対のインターネット空間にある「仮想都市OZ」です。
のどかな自然の風景と、ある危機が訪れる「仮想都市OZ」の世界。この見事な対比が、『サマーウォーズ』という作品に独特なユニークさを与えています。
長野県上田市の自然が、作品の魅力に大きく寄与しています。そしてその自然の素晴らしさが観客に伝わるのは、美術スタッフの力があってこそ。『サマーウォーズ』では、緑いっぱいの自然はもちろん、古くて広い日本家屋など印象深い絵が続きます。
美術監督の武重洋二さんは、『ホーホケキョ となりの山田くん』や『千と千尋の神隠し』など、ジブリ作品でも美術監督を務めており、その実力を『サマーウォーズ』でも遺憾なく発揮しています。
映画『サマーウォーズ』のネタバレ(あらすじ)を解説!
ここからは映画『サマーウォーズ』のネタバレありの解説です。物語のセクションに分けて紹介していきます。
「ネタバレありのあらすじを読みたくない」という方は注意してください。
世界で10億人のユーザーが利用する仮想世界「OZ」

物語は仮想世界「OZ」からはじまります。
OZは、自分の分身でもあるアバターを設定し、インターネット上であらゆるサービスが利用できる仮想世界です。
高度な翻訳機能によって世界中の人々とコミュニケーションが取れたり、買い物やスポーツが楽しめます。
さらにはビジネス上での拠点をOZの中に設けたり、行政機関の窓口を作って納税や各種手続きが行えたりも。
生活に関わるあらゆるサービスが仮想現実上に統合されており、世界中で10億人のユーザーを集めています。
冴えない高校生・小磯健二に“バイト”の依頼が!

数学オリンピックの日本代表に落選し、落ち込んでいた男子高校生「小磯健二」。
友人の「佐久間敬」と共にOZの保守点検のバイトをしていました。そんなところに突然現れたのが先輩の「篠原夏希」。
「ねぇ!バイトしない?」
夏希が提示してきた内容は、「私と一緒に田舎へ行く」という依頼。
夏希に憧れを抱いていた健二は立候補し、夏希の田舎へ行くことになります。
夏希「えーっと、私のカレ」
夏希から依頼されたのは、「90歳の誕生日を迎える栄おばあちゃんのお祝いを手伝ってほしい」という内容でした。
夏希の実家「陣内家」は、室町時代から続く武家の家柄。その16代当主でもある陣内栄の誕生日ということもあり、26人の親戚一同が集まっていました。
栄に挨拶を健二でしたが、夏希から自分の婚約者だと紹介されてしまいます。

夏希は事情を説明し「お婆ちゃんや親戚の前で私の恋人のフリをしてほしい」という本当の目的(依頼)を打ち明けました。
お婆ちゃんを喜ばせるため、嘘に協力してほしいと頼まれ、最初は戸惑っていた健二でしたが、仕方なく承諾することに。
「東大生」「旧家の生まれ」「アメリカ帰り」という超ハイスペックな設定まで盛り込まれ、健二は4日間夏希の恋人のフリをすることになります。

26人もの親戚を一度に紹介されて戸惑う健二でしたが、親戚側は健二を快く迎え入れます。(陣内翔太以外は)
【補足説明】陣内家(じんのうちけ)について
夏希の実家でもある「陣内家」。先祖の墓は室町時代からあり、戦国時代から続く武家の一族です。(武田氏の家臣でもあった由緒ある家柄)
武田氏滅亡後は、現在の家がある上田に逃げ延び、小国ながら郷土を守ってきました。
明治時代に生糸商で成功して家を大きくしたのですが、栄の亡き夫でもある陣内徳衛がとんでもない浪費家で、現在は家ぐらいしか残っていません。
90歳の誕生日を迎える陣内栄は、この陣内家の16代当主。
元々教師をしていた栄には、元教え子に「政界・財界・地元」の有力者などがおり、幅広い人脈を持っています。
うっかり解いちゃった暗号が大混乱の元に・・・
陣内家での食事も落ち着き、健二はお風呂に入っていました。そんなところへ陣内侘助が帰ってきます。
侘助は本家の養子で、一族の資産を持ち逃げしてアメリカに留学。
行方知らずだったこともあり、周囲の反感を買ったのですが、夏希には好意的に迎えられます。
陣内家での夜を迎えた健二の携帯電話に、羅列された謎の数字が届きました。数学オリンピックを目指すほどの頭脳をもつ健二は、いつもの癖で問題を解いてしまいます。
しかし、それはOZの管理権限をハッキングする暗号でした。翌朝、OZは人工知能「ラブマシーン」によって乗っ取られてしまいます。
あらゆるサービスを統合的に運営していたOZ。それを乗っ取られたことによって、世界中が大混乱に陥ります。
ハッキングの犯人として暗号を解読してしまった健二は、ニュースに登場してしまいました。

「ラブマシーン」はOZのシステムを好き放題に書き換え、仮想世界も現実も大混乱を引き起こすことに!
健二は佐久間が作ってくれた仮アカウントで、乗っ取られた自分のアカウントと接触するも返り討ちにあってしまいます。
池沢佳主馬が操る「キングカズマ」の助けもあり、難を逃れた健二でしたが、パワーアップしたラブマシーンの前に、キングカズマもなす術なく敗れてしまいます。
【補足説明】ラブマシーンとは?
侘助が開発したAI。強い知識欲を持ち、学習することで強化していきます。
侘助は開発後、アメリカ国防総省に「ラブマシーン」を提供するも、米軍が行ったテストによってラブマシーンが暴走。
OZのアカウントを次々と乗っ取っていきながらパワーアップしていきます。
栄おばあちゃんの電話
OZ大混乱の容疑者として報道されてしまい、ついでに夏希の恋人という嘘もバレた健二は、警察官の翔太によって逮捕されてしまいます。
しかし、OZの混乱は現実世界にも波及しており、交通は大渋滞。車がまったく進まないため、一度家へ引き返すことになります。
現実と仮想世界での権限が等しくなっているOZの世界。ラブマシーンはあらゆるアカウントを乗っ取り、世界中をめちゃくちゃにしていきますが、OZの高いセキュリティが裏目に出て、なす術もありません。
インフラ関係や消防、救急などに勤務している陣内家の人たちも仕事に追われ、誕生日に参加することさえ難しくなってしまいます。
状況を見兼ねた栄。自身の人脈を使い、作業に追われている親戚や政界・財界に電話をかけ、みんなを励ましていきます。
「あんたならできる」
この一言で奮起した人々の尽力により、現実世界での混乱は緩和。健二も暗号を解読することで、OZの管理棟に侵入し事態が一時的に収束します。
ラブマシーン開発者と栄おばあちゃんの死
問題の根本が、ラブマシーンであることを特定。解決を目指す健二たちでしたが、侘助がラブマシーンの開発者であることを打ち明けました。
知識欲を持たせたハッキングAI「ラブマシーン」は、OZ内のアカウントを次々と蓄え続けています。
アメリカ国防総省による「ラブマシーン」の実証実験としてOZが使われたことで、世界は大混乱を引き起こす結果に。
栄はそのことに激怒。薙刀を振り回し、侘助を追い出します。
その日の夜、栄と一緒に花札をした健二。
「夏希をよろしく頼むね」といわれますが、健二にはその自信がありませんでした。
翌日の早朝、栄は心臓発作で亡くなってしまいます。医師の万作が、いつもなら栄の体調をOZ経由でモニタリングしていたのですが、ハッキングによって異変を見逃してしまったのでした。
一家のまとめ役でもある栄を失った陣内家はバラバラになってしまいます。葬式の準備に急ぐ女性陣、栄の仇討ちに躍起になる男性陣、落ち込む夏希に健二はどうすることもできません。
キングカズマのリベンジ戦-上田城合戦-

ラブマシーンの暴走を食い止めるため、策を練る健二たち。
電気店を営む大助は、スーパーコンピューター。
水産業を営む万助は、電力を補うために発電機を備えた漁船。
自衛隊員の理一は、松本駐屯地から通信車両を用意。
万全の体制でラブマシーンに挑みます。第二次上田城合戦のアイデアを活かし、ラブマシーンを城の中に誘導、閉じ込めることに成功します。
しかしスーパーコンピューターの冷却に使っていた氷を、翔太が栄の元に持ち出したため熱暴走を起こし、作戦は失敗。
強大化したラブマシーンによって、キングカズマのアカウントも乗っ取られてしまいます。
世界のピンチと栄の最後の言葉
ラブマシーンは4億人以上のアカウントを乗っ取り、小惑星探査機「あらわし」を核施設に落下させることを企てます。
パニックに陥る陣内家一同だったのですが、夏希が栄の遺言(※以下に一部抜粋)を見つけます。
つらい時や苦しい時があっても、いつもと変わらず、家族みんなそろって、ごはんを食べること。一番いけないのは、おなかが空いていることと、1人でいることだから。私はあんたたちがいたおかげで、たいへん幸せでした。ありがとう。じゃあね。
(引用:サマーウォーズ公式)
この言葉を聞いて落ち着きを取り戻した陣内家。栄が亡くなった報告を受けた侘助も実家に戻り、ラブマシーンを食い止めるために協力をします。
最終決戦!ラブマシーンを食い止める!

奪ったアカウントを取り戻すため、ラブマシーンに「花札」の勝負を挑みます。
栄に鍛えられた夏希の実力によって善戦を繰り広げるものの、ラブマシーンのチートによって窮地へ立たされることに。
しかし全世界の人々が夏希にアカウントを提供し、パワーアップした夏希は勝利を収めます。
これで終わったかのように思えましたが、ラブマシーンは「あらわし(小惑星探査機)」を陣内家に落下させようとします。
『サマーウォーズ』ラストシーンとエンディング

落下による直撃を避けるため、陣内家は避難しようとします。
しかし、健二があらわしのGPS情報を操作するために暗号解読へ挑みました。
何度も暗号解読に失敗しますが、「健二の計算能力」「侘助のクラッキング」「キングカズマ」による一撃で、あらわしの軌道をずらすことに成功。
陣内家は生き残った上に、源泉まで手に入れます。一見落着した次の日に、栄の葬儀と誕生日が行われました。
夏希はOZ混乱の収束と、陣内家を救ってくれた健二のほっぺにキスをするのですが、鼻血を吹き出して物語の幕は閉じます。
『サマーウォーズ』結末・感想
『サマーウォーズ』の魅力は、主人公の健二とヒロインの篠原夏希だけではありません。
「大家族」のメンバーそれぞれに役割が与えられていて、「家族みんなで協力して危機に立ち向かう」テーマが鮮明に浮かび上がってきます。
侘助は破天荒な性格で親族の鼻つまみ者ですが、本当は家長である栄(おばあちゃん)を慕っています。
佳主馬は見せ場がたっぷり用意されており、『サマーウォーズ』に欠かせない登場人物と言ってもいいくらいです。
ずば抜けた才能ない他のキャラクターも、自分の仕事やできることを生かして、健二たちをサポートし、「家族の一体感」を表しているのです。
関連・類似作品との比較や共通点
アニメ劇場版『時をかける少女』が話題となり、アニメファン以外にも広く認知されるようになった細田守監督。
2007年にはご自身が結婚したり、さらには子どもが生まれたことも関係するのか、『時をかける少女』以降は「家族」や「親子」といったテーマを作品の主軸に置くようになりました。
その最初の作品が、この『サマーウォーズ』です。
以降、細田監督は『おおかみこどもの雨と雪』では母子関係。『バケモノの子』では父子。『未来のミライ』で兄妹をテーマに作品を描き続けています。
まだ細田作品を見たことがない人は、その変遷を追って見ると楽しさが増すかもしれません。
【サマーウォーズの考察】栄の夫・徳衛の存在はなぜ作中から抹消されているのか?

ですが本作において、一族を束ねる栄の夫・徳衛の存在にはほぼ言及がありません。栄の屋敷には徳衛の写真すらない徹底ぶりです。
家族愛を描いた映画でありながら、なぜ徳衛は消されてしまったのでしょうか。
「徳衛・栄・侘助」それぞれの背景を探りつつ、その理由を考察してみました。
栄の夫、徳衛の存在感が限りなく薄い理由とは
陣内栄は『サマーウォーズ』の看板ともいえる、大変かっこいいおばあちゃんです。本作を見て、彼女の優しくも厳しい人柄に惚れこんだ人も多そうですね。
しかし、彼女との間に4人の実子をもうけた夫の名前は、どれだけの視聴者が知っているでしょうか。
細田守監督は「映画com.」のインタビューにて、『ALWAYS 三丁目の夕日』のような温かくてワイワイにぎやかな家族を現代で描きたい」と回答しています。
『ALWAYS 三丁目の夕日』は、他人の男女が小学生の子供を育てる疑似家族ものでした。
血の繋がりで結束した陣内家と対照的に、『ALWAYS 三丁目の夕日』は血の繋がらない同士が家族になる話です。
『ALWAYS 三丁目の夕日』の茶川は、売れない物書きでありプライドが高く、最初は居候の淳之介を邪険にしていました。
ですが仕方なく世話を焼くうちに愛情が芽生え、最終的には彼を家族として受け入れます。
淳之介を抱き締めて家路に就いた茶川の決断は、血の繋がりをこえた父親のあるべき姿として、視聴者の胸に焼き付きました。
一方、『サマーウォーズ』において徳衛は父親としてまったく機能していません。
実子の万作たちすら、子供の頃に「お父さんとあんなことがあった」「こんなことをして遊んだ」と語らないのです。
親戚一同が集った場所で名前すら上がらない時点で、徳衛の父性は茶川におよびません。
細田守監督自身が子煩悩なイクメンであるのも、家庭を放任した徳衛をスルーする要因でしょうか。
陣内家の面々が愛すべき人々として描かれているのに、徳衛は最後まで栄の元夫以上でも以下でもない、ただの記号どまりでした。
徳衛の存在は雑音だった?

『サマーウォーズ』で印象的なキャラクターを聞かれると、多くの視聴者が栄を挙げます。
作中では他の家族を支え、死後に公開された遺言によって家族を勇気づけたりと、八面六臂の活躍をしました。
ところが、ここで疑問が生まれます。
『サマーウォーズ』は家族愛が重要なテーマです。陣内家の一人ひとりを生き生きと描写していますが、その中に栄の亡き夫・徳衛は含まれません。
すでに故人だから仕方ないとする向きもあります。
しかし回想シーンにすら一度も登場せず、屋敷には写真も飾られていないのです。
まがりなりにも陣内家の先代当主であるのに、いささか恣意的に排除されている感は否めません。
徳衛はどんな人物?
陣内徳衛は栄の婿養子です。
浪費癖のある放蕩者で、彼が生前作った莫大な借金の返済のために、陣内家は山や土地を手放すのを余儀なくされました。
身も蓋もなく表現すれば、戦国時代から続く陣内家の財政を一代で傾けたダメ亭主。人望と人徳を兼ねた良妻・栄と対比されています。
ラブマシン開発の功績を携え、10年ぶりに帰省した侘助はこう発言しました。
「これでこの家にじいさんの代以上の多額の金が入るからばあちゃん(栄)に恩返しができる」。
侘助は徳衛の隠し子でした。愛人との間に子供まで作っているあたり、徳衛は結構な女好きでもあったようです。
自分が傾けた財政の金策に栄が走り回り、その間に女性と不倫していた事実からも、決して褒められた人間でないのが伝わります。
侘助の母親は?
侘助の母親にはいっさい言及がありません。
栄は「じいちゃんに耳の形がそっくりで驚いた」と発言し、幼い侘助を陣内家に迎え入れますが、その時でさえ徳衛や母親の存在は無視されています。
ここに少しの違和感を感じないでしょうか。
まず、血の繋がりを下敷きにした家族愛を掘り下げたいとします。
すると家族の幸せより、私欲を優先した自己本位な徳衛や、息子を手放した侘助の実母の存在は雑音になりかねません。
注目すべてきは、徳衛が「入り婿」という微妙な立場であることです。
入り婿は外からやってきた男性であり、陣内家とは本来なんの関係もありません。
もちろん現在の陣内家にも外からやってきた者はいます。
しかし彼らは栄を絶対視し、多少の不満や軋轢はあれど陣内家のしきたりに馴染んでいます。
栄のお眼鏡にかなって陣内家に同化した人間は、一族として受け入れられ家族を形成しました。
夫が外に作った愛人の子を引き取り、実子と区別せず育て上げた栄。その生き方は立派ですが、妻として母として出来過ぎた栄への引け目が、徳衛に影を落としていたのかもしれませんね。
『サマーウォーズ』栄と『天空の城ラピュタ』ドーラの共通点
田舎の大家族には家父長制度が濃く残っています。近年では、ポリコレ問題も映画業界に影響を与えはじめました。
ポリコレとはポリティカルコネクトの略語で、「性別・人種・民族・宗教」に起因する差別や偏見を排す運動です。
公開当時の2009年には浸透していない概念でしたが、陣内家の長をあえて祖母の栄に設定したのは大きな意味がありました。
宮崎駿監督のジブリ映画『天空の城ラピュタ』には、主人公・パズーとヒロイン・シータを狙い、のちに助ける女海賊のドーラが登場します。
ドーラは肝っ玉と腕っぷしに恵まれ、3人の息子たちを時に叱咤・恫喝しながら、空を股にかけて海賊稼業に精を出していました。
『天空の城ラピュタ』のドーラ。
『サマーウォーズ』の栄。
2人の共通点は3つあります。
- 非常に豪胆で行動力のある女傑
- 成人した息子たちをしばしば叱りとばす激情家
- 夫の存在が限りなく薄い
両作ともに夫は故人であり、作中において姿すら見せません。それはドーラと栄のキャラクターを立てるためです。
家の内を取り仕切る母としての強さ、外からの脅威を防ぐ父としての強さ。ドーラと栄は肝っ玉母さんとカミナリ親父のハイブリッド型で、双方の役割をこなしていました。
栄は現代にアップデートされた「奥さん」である
陣内家は戦国時代に取り立てられた由緒正しい武家であり、その末裔の栄もまた、武家の娘の名に恥じない気高い精神性の持ち主です。
だからこそ彼女は「世間に大迷惑をかけながら、悪行を反省もせず開き直る」侘助の所業が許せません。悪びれない侘助を、伝家の薙刀で成敗しようとすらしました。
武家には男尊女卑の傾向があります。亭主関白という四字熟語に集約されるように、妻は夫の影を踏んではいけない、3歩下がって従うのが美徳とされました。
家の奥を守ることから「奥さん」という呼称が生まれたのも有名です。
やや時代錯誤な価値観であり、栄はこの例にまったくあてはまりませんが、「奥さん」の精神性の一部を受け継いでいました。
『サマーウォーズ』は陣内家中心の物語であり、舞台はほぼ陣内家の中に限定されます。
栄にいたっては自分の和室にこもっている描写がほとんどで、健二や夏希と花札をする時も、彼らをわざわざ自室に招きました。
89歳という高齢で、身体が衰えているのを考慮しても、一歩も外に出ない徹底ぶり。出るのはせいぜい縁側に面した庭か近くの畑で、けっして陣内家を離れることはありません。
OZはインターネット上の仮装世界で、パソコンからダイブできるためにゼロ距離です。
一日中「奥の間」にこもり、そこから次々と子供たちに指示をだす栄。彼女こそ現代風にアップデートされた、戦う奥さんそのものではないでしょうか。
侘助はアダルトチルドレン?朝顔の花言葉に託された絆
栄に十分愛情をかけられ育てられた侘助ですが、その言動にはアダルトチルドレンの特徴もありました。
アダルトチルドレンとは幼少期に家庭内のトラウマを持ち、そのまま大人になってしまった人々の総称です。
栄をはじめとする家族に本当の意味で認められるため、手柄を持って凱旋しなければいけないと思い込んでしまった侘助。実の母親に捨てられた事が、トラウマとなっているのかもしれません。
侘助は、栄への感情は饒舌に口にしますが、生物学上の父親である徳栄についてはほぼ語りません。
陣内家で唯一血が繋がっていた人間に対し、無関心にすら見えます。「この家にじいさんの代以上の金が入る」の「じいさん」が、栄の実父をさすのか徳衛をさすのかは不明です。
しかし後者だとすれば、父親とすら認めていない可能性が浮上します。一方で育ての親の栄を「ばあさん」と呼んでいますね。
侘助と栄の出会いを描いた回想シーンにおいて、侘助は小学校低学年くらいの年齢に見えました。
仮に侘助が5~10歳の間に陣内家に引き取られたとすると、年齢から逆算して当時の栄は50代。外見と年齢だけ見た場合、たしかに祖母と孫と呼んだ方が自然ではあります。
侘助が栄を「ばあさん」、徳衛を「じいさん」と呼ぶのは、彼の複雑な生い立ちやナイーブな葛藤が影響しているのかもしれません。
栄と徳衛の間に愛情はあった?
実子である万助や万作たちにもスルーされ、団欒の場の思い出話でも言及がない徳衛。
そして栄は、さんざん苦労をかけられた夫に対する不平不満や恨み言を一切口にしません。これは故人を貶めない栄の人間性でしょう。
それを踏まえた上で「じいちゃんと耳の形がそっくりで驚いた」侘助を受け入れており、夫に悪感情を持っていないことがわかりますね。
一般論として、思い出は美化されるものです。徳衛の存在がほぼ消されているのは、陣内家に砂をかけた元凶だからというのは否定できません。
しかし栄が父親と母親の美点を備え、それで陣内家が回っているため、あえて引っ張り出す必要もないのでした。
終盤に公開される栄の遺書には、彼女が侘助と出会った時のエピソードが書かれています。
そのとき彼女は、幼い侘助と手を繋いで朝顔畑を歩いたと言っています。朝顔の花言葉は「愛情・結束」。
この朝顔畑を、栄と侘助が「手を繋いで」「家に帰る」シーンにこそ、『サマーウォーズ』の伝えたいことが詰めこまれているのではないでしょうか。
神木隆之介や桜庭ななみも!『サマーウォーズ』の声優・キャスト一覧
OZというインターネット上の近未来を描き、人々の絆や助け合いをテーマにした細田守監督の代表作。
ここからは『サマーウォーズ』の声優(キャスト)やスタッフについて紹介します。
小磯健二(こいそけんじ)・神木隆之介(かみきりゅうのすけ)

主人公は神木隆之介(かみきりゅうのすけ)さん演じる「小磯健二」。俳優としても大活躍の神木さんですが、声優業でも数々のヒット作に出演。
『サマーウォーズ』の他には『千と千尋の神隠し(坊役)』、『ハウルの動く城(マルクル役)』、『君の名は。(立花瀧役)』など、日本アニメを代表する作品に名を連ねています。
気が弱く冴えない高校生の健二役を演じ、弱々しい一面と苦難に立ち向かっていきながら成長していく姿が印象的でした。
篠原夏希(しのはらなつき)・桜庭ななみ(さくらばななみ)

健二の憧れの先輩で、本作のヒロインでもある「篠原夏希」を演じたのは桜庭ななみ(さくらばななみ)さん。
最近では、連続テレビ小説『スカーレット』や大河ドラマ『西郷どん』への出演で活躍しています。
『サマーウォーズ』は声優として初挑戦だったこともあり、初々しさもありながら夏希の軽い感じや力強さがエネルギッシュに表現されています。
池沢佳主馬(いけざわかずま)・谷村美月(たにむらみつき)

OZ内でキングカズマを操る「池沢佳主馬」役を演じたのは、女優の谷村美月(たにむらみつき)さん。
谷村さんは『時をかける少女(藤谷果穂役)』、『おおかみこどもの雨と雪(土肥の奥さん役』、『バケモノの子(ノンクレジット)』と、細田守作品に縁の深い女優でもあります。
中学生ながら少し大人びた性格ながら、ラブマシーンに敗れて感情的になったり、自分が背負う責任の大きさに苦悩するなど、感情の起伏を見事に演じ切っています。
陣内栄(じんのうちさかえ)・富司純子(ふじすみこ)

陣内家16代当主で一族のまとめ役でもある「陣内栄」を演じたのは、女優の藤純子(ふじすみこ)さんです。
時代劇を中心に活躍してきた大女優で、2007年には紫綬褒章を受賞。
ちなみに、陣内栄も紫綬褒章を受賞していることが触れられています。
強さと優しさを兼ね備え、時に鋭い眼光で厳しい言葉を投げかけることもあれば、優しくも力強い言葉で人を励ます役どころ。
誰もが慕い、誰もが心の拠り所にするような器の大きさを見事に表現しています。
陣内侘助(じんのうちわびすけ)・斎藤歩(さいとうあゆむ)

数々の舞台を手掛けながら、自身も俳優として活動を続けています。
斎藤歩さんが演じている侘助は、知的でドライな性格ながらも、育ての親でもある栄を内心慕っています。
栄が亡くなった知らせを受けた際には、車を飛ばして帰宅し、ラブマシーンを食い止めるために尽力している姿が印象的です。
キャラクターデザインは貞本義行
キャラクターデザインを担当したのは、『新世紀エヴァンゲリオン』でも知られる貞本義行さんです。
その他の細田守作品でもキャラクターデザインを担当しています。
『エヴァンゲリオン』と『サマーウォーズ』のキャラの雰囲気は、どことなく似ているように感じます。
映画『サマーウォーズ 4DX』が2020年1月17日に公開!
2009年の劇場公開から10周年を迎えた『サマーウォーズ』。
今もなお愛され続けている本作が、2020年1月17日に4DXでも公開されました。
2009年に公開されてから10年。私たちの生活も大きく変化しました。
「サマーウォーズ4DX」を観れば、この10年で起きたテクノロジーの進歩や生活の変化を感じさせてくれることでしょう。
世界中の人々がアバターを介してコミュニケーションを行う仮想世界「OZ」。「4DX」ではどのようになるのか?気になるポイントです。
映画内で展開される「OZの世界観」は、私たちの世界よりも遥か先をいっている内容です。
その世界を4DX版でどこまで体感できるか!?4DX版になって一番注目されるのがOZの世界観ではないでしょうか。
『サマーウォーズ』の総合評価

夏の季節、無性に観たくなってしまう映画『サマーウォーズ』。「この映画を見ないと夏がはじまらない!」SNSではそんな方が大勢いました。筆者もその一人です。
サマーウォーズはテクノロジーな世界だけにとどまらず、田舎の雰囲気を存分に味あわせてくれる魅力があります。
現実のテクノロジーは「OZの世界」に追いついていませんが、「いつかこんな時代が来るのでは」と夢見たくなるような内容です。
SFチックでサイバーパンク的な世界観を表現しながらも、「人と人との結びつき」「助け合い」が中心となっているテーマでもあります。
映画『サマーウォーズ』。夏を感じたくなったらご覧ください!
細田守監督の映画作品紹介
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