映画『星を追う子ども』あらすじ・ネタバレ紹介!考察や聖地を含めて解説

星を追う子ども
(C)2011『星を追う子ども』製作委員会

2011年5月に公開された映画『星を追う子ども』。
新海誠監督による劇場版アニメ-ション映画(第4作)です。

過去3作とも、その後の作品とも違う新海ワールド。
今までの作品と比べると、異色のテイストを持った作品です。

ジブリな雰囲気をありつつ、ファンタジー要素満載。アクションもふんだんにある内容となっています。

また、『君の名は。』『天気の子』につながる重要なポイントがあり、新海映画を語るには欠かせない作品です。

今回の記事は、映画『星を追う子ども』のあらすじを「ネタバレあり」で解説(以下内容)していきます。

記事の内容

「ネタバレありで読みたい!」という方は最後までご覧いただき、動画フルで視聴したい方は、以下ページで無料視聴の方法を解説しています。

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星を追う子ども
目次

映画『星を追う子ども』の作品概要

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(C)2011『星を追う子ども』製作委員会

『星を追う子ども』は、過去の新海作品と違うファンタジー作品です。

物語は田舎風景からはじまりますが、途中からは地下世界を冒険するSF作品です。

主人公の少女「アスナ」が、少年「シュン」と出会ったことから冒険がはじまっていきます。

ストーリーや映像、巨大怪獣や夷族といった謎の生物が登場する部分は、ジブリ作品を彷彿させるところがあります。

ファンタジー作品でありながら、「生」と「死」という深い内容が盛り込まれた作品です。

監督・キャスト・スタッフ一覧

公開日2011年5月7日
上映時間1時間56分
興行収入2,000万円(推定)
監督・脚本新海誠
音楽天門
主題歌熊木杏里(Hello Goodbye&Hello)
キャスト金元寿子 入野自由 井上和彦 島本須美 竹内順子
予告動画
(YouTube)
『星を追う子ども』予告編
公式サイト『星を追う子ども』公式
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関連作品新海監督・映画作品一覧

『星を追う子ども』の見どころ※ネタバレなし

どこか懐かしさを感じさせる山間の風景・生活
『星を追う子ども』は、なごやかな雰囲気が漂う山間の風景から始まります。主人公であるアスナ(渡瀬明日菜)が住む場所です。劇中では場所も年代も明示されていません。


しかし、どこか懐かしさを感じさせる風景から、その地域の様子や住民の人柄が、ぼんやりとですが把握できます。家の中の様子や、鉱石を利用した手作りラジオが出てくることから、年代もある程度わかります。


昭和30年代か、40年代あたりではないでしょうか。音声や文字での説明がなくても、「絵で伝える」くることも新海作品の素晴らしさです。
走る!跳ぶ!これが新海流の冒険アニメ
新海監督の作品としては珍しく、『星を追う子ども』はアクションシーンが多い映画です。他の作品でもアクション的なシーンがないわけではありません。


しかしこの映画では、キャラクターたちがよく走り、よく戦います。迫力十分な殺陣のシーンもあります。高い場所から水に飛び込む、広大な建物の外壁を走り抜く……キャラクターは画面狭しと動き回ります。


恋愛要素が強いイメージのある新海監督が送る冒険アニメ。それが『星を追う子ども』です。
ラストでシンの腕に巻かれているもの
終盤のシーンで、シンの右腕に巻かれている「あるもの」。これに気づいた視聴者も多いと思います。ネタバレを避けるため詳細は書きませんが、序盤のあるシーンを思い出して、思わず微笑んでしまう方も多いのではないでしょうか。


あれは、もうアスナには必要のないものです。エピローグにおけるアスナの姿を見たら、その理由もわかります。「成長のあかし」なのです。


なぜシンが巻いているのか、劇中ではいっさい説明がありません。手当なのか、それとも記念のプレゼントなのか…観客に想像の余地がある素晴らしい仕掛けです。

映画『星を追う子ども』のあらすじ・ネタバレ

ここからは『星を追う子ども』のネタバレ解説です。まだ観ていない方は注意してください。

それでは『星を追う子ども』のあらすじ紹介をしながら、映画の「考察・感想」を解説していきます。

おりこうさんの孤独な少女明日奈の秘密

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信州の山村で暮らす中学生の少女明日奈。
母と2人暮らしだが、看護師の仕事が忙しい母とはほとんどすれ違いです。

明日奈は「料理・洗濯・買い出し・掃除」を一人でこなし、成績もクラスでトップ。

ユウ(同級生)の遊びの誘いも断り、友達と言えば、放し飼いにしている猫のような生き物ミミだけ。

明日奈の唯一の楽しみは、鉄道橋を越えた小渕の山に作った秘密基地で過ごすことだった。

村が見渡せる見晴らしのいい丘で、明日奈は亡くなった父の残した石で鉱石ラジオをつけます。

桜の花が咲く頃、ラジオから「遠い宇宙から届いたような不思議な音楽」を聴きますが、それ以来その音楽が聴こえることはありませんでした。

ある時、家の窓から秘密基地のある山の一角が光るのを見かけます。

謎の化け物の出現と少年シュンとの出会い

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山に行こうと鉄道橋を渡る明日奈は、恐竜のような化け物ケツァルトルに遭遇。
そこで明日奈の危機を救ったのはシュンという少年でした。

シュンの胸にあるペンダントの石「クラヴィス」が光ると、ケツァルトルは力を失って橋から転落。
シュンは明日奈を安全な場所に連れて行くと、山に近づくなと言い残して去ります。

化け物が現れたことで騒動の噂が広まるが、ケツァルトルは「熊が出た」ということに。
一方で、謎の組織アルカンジェリの一員がケツァルトルとシュンの行方を追いはじめます。

アルカンジェリは化け物が橋から落ちた後、岩石化しているのを発見。
地下の生き物(ケツァルトル)は、地上では長く生きられないため、アルカンジェリは地下世界の生き物が地上に現れているとを確信します。

シュンとの束の間でいながら永遠の恋

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翌日、明日奈は学校を休み、再び山に入ってシュンと再会します。
怪我をしたまま何の手当もしないシュンの右腕に、明日奈は自分のスカーフを巻きました。

鉱石ラジオを聴きながら、シュンは「アガルタという遠い国から来た」と伝えます。

「祝福をあげよう」とシュンは明日奈のおでこにキスをして、「君に生きていて欲しいんだ」という。
明日奈は始めてのキスに動揺して走り去ります。

明日奈が聴いた不思議な音楽は、シュンの最後の歌でした。
翌日、土砂降りの中、裏山に入りシュンを探す明日奈だったが、すでに姿は無かった。

家に戻ると、母から「明日奈のスカーフを腕にした少年の遺体が裏山でみつかった」と知らされます。

明日奈はシュンの死を信じられなかったのですが、次の日もシュンの姿はどこにもありません。
幼い頃、父が亡くなり、落ち込む母の姿を思い出していました。

地下世界アガルタの謎

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新しく赴任した教師・森崎から古事記伝説の「黄泉国神話」を聞くことに。
死んだ人を蘇らせる世界「アガルタ」の名前を聞き、明日奈は驚きます。

古代から、死んだものの魂は地下の王国で生きているという伝説が世界各国にあるというのだ。明日奈は森崎の家に出向き、地下世界の話を聞くことに。

かつて地上にいて人類を導いた神ケツァルトルは、人類が成長して役割が終わると、門番だけを残し、少数の氏族を従えて地下に潜ったという。

ケツァルトルと共に地下で暮らしはじめた氏族は、地下世界「アガルタ」を構築。
アガルタではあらゆる願いが叶う場所があるという。

死者さえも復活させることができるというのだ。
明日奈はアガルタの存在を信じた。

シュンそっくりの少年シン

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森崎家の帰り道、シュンがいなくなって以来姿を消していたミミと再会した。
再び秘密基地の辺りが光って、明日奈はシュンの気配を感じて裏山の丘に行きます。

丘の上に立っていた少年をシュンと呼びかける明日奈だったが、少年は明日奈を知らないとはねつけます。少年の持つ鉱石「クラヴィス」を求めて、謎の組織アルカンジェリが攻撃して来ました。

明日奈は少年と共に地下へ逃げますが、アルカンジェリは少年のクラヴィスを奪い、アガルタにつながる地下の入り口の扉を開けます。

少年はシュンの弟シンだった。
シュンが持ち出したクラヴィスを回収するために地上に来たのでした。

アルカンジェリのリーダーの正体は森崎先生だったとわかります。
森崎はアルカンジェリを離れ、亡くなった妻を蘇らせるために、アガルタに入っていきます。
明日奈も危険を覚悟してアガルタに入っていくことに。

地下世界アガルタの中へ

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太古の水・ヴィータクアは、肺に水を一杯にすることで液体呼吸ができます。

古代の遺跡が囲むヴィータクアの間の海をくぐり抜けると、森崎と明日奈は地下世界に出てきました。

明日奈のリュックに忍び込んでいたミミも行動を共にすることに。
そこで空飛ぶ船「シャクナ・ヴィマーナ」を目撃。

父の形見の鉱石もクラヴィスの欠片…
明日奈が鉱石ラジオから流れる音楽を聴くと、浮かんでくる風景はアガルタのものでした。

2人は「シャクナ・ヴィマーナ」を追いかけて旅をすることになるが、アガルタの町はどこまでも廃墟ばかり。

シンはクラヴィスを回収したものの、森崎と明日奈をアガルタへ導き入れたことをカナン村の長老に咎められた。

明日奈の持っている「クラヴィスの回収」と「2人の排除」を命じられ、シンは再び旅に出ることに。

夷族の襲撃

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旅の途中、明日奈は異形の異民族・夷族にさらわれてしまいます。

明日奈が目をさますと、そこは夷族の岩窟でアモラートの少女マナも捕らえられていました。

光を嫌う夷族は、影にしかいることができません。
光が射す方に逃げ回る明日奈とマナだったが、ついに夷族に取り囲まれてしまいます。

シンは2人を救出いしたものの、夷族から深手を受け、瀕死の状態に。

森崎と明日奈は、シンと共にマナの暮らす村アモラートへたどり着きます。
そこは、アガルタに入ってから2人がはじめて見た人が住む集落でした。

アモラートの村人が地球人を嫌う理由

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アモラートの村人たちは地上人を【ケガレ】と呼んで忌み嫌っていることがわかりました。
「地上人はアガルタの崩壊を引き起こした元凶だ」と。

「ジンギスカン・ナポレオン・ヒットラー・ムッソリーニ」
アガルタは独裁者の野望のために、何度も地上からの侵攻を受け、荒廃し衰退の一途を辿っていました。

アモラート村の一晩

夷族は交わりを嫌う性質でしたが、マナの祖父のはからいで一晩だけ泊めてもらい、シンの手当をできました。

マナの父は地上人でした。
地上人の血を持つ明日奈とマナが襲われたのです。

祖父はミミをヤドリコだと言います。
ヤドリコは神の子の魂が宿った動物で、人と一緒に育ち、役目を果たした後はケツァルトルの一部となるという。

祖父は、「世界の果てフィニス・テラの崖下にある生死の門まで行けば、死者を甦らせることもできる」と言います。
しかし、死者の復活は人間に許されないと具体的な方法を森崎に教えません。

意識を取り戻したシンもまた、明日奈を助けたことに後悔しました。

長老の指図通りに明日奈と森崎を殺しておくべきだったと嘆き、明日奈を拒絶します。
明日奈は涙をこぼしながらマナを抱き、眠りました。

ミミとの別れ

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森崎と明日奈は、この世の果てと言われる「フィニス・テラ」に近い湖へ向かうため、ボートで川を渡ることに。

ミミは岸辺で明日奈を離れます。
祖父は、「ミミが今生の役目を終えたのではないか」という。
マナにミミを託して旅立ちます。

明日奈は、図書館で読んだイザナギイザナミの神話の結末を思い出します。
死んだ妻イザナミは、腐って恐ろしい姿に変わり果てていました。

死者を蘇らせることが正しいのか、明日奈は疑問を持ちはじめます。

ミミはまもなくマナに抱かれて死んでしまい、弔っていると、ケツァルトルが現れます。
片手を失っているケツァルトルは、シュンの魂を宿していると思われました。ケツァルトルはミミを食べると、ミミは大いなる存在の一部となります。

シンは、武装したアモラートの兵士が、明日奈の向かった方へ馬を走らせるのを目撃します。

生死の門の試練

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フィニス・テラに向かう森崎と明日奈にアモラートの戦士が襲ってきます。
森崎が銃で応戦するしようとすると、シンが間に入って2人をかばいます。

アモラートの戦士に敗れはしたものの、シンは明日奈を逃がすことができました。

その間に、森崎と明日奈はフィニス・テラの崖までたどり着きました。
崖の下に「生死の門」があるが、そこは断崖絶壁。

明日奈は恐怖で崖を降りれなくなります。
森崎は一人だけで崖下に向かうことに。

日が沈むと夷族が迫ってきて、明日奈は夷族が苦手な水のある川を歩いて進みます。

逃げる明日奈に、「祝福をあげよう」と言われたシュンの言葉が蘇る。
母やユウのことを思い出して、アガルタに来たのはただ自分が「寂しかった」からだと気がつきます。

川の水がいつの間にか引いて、夷族が明日奈を取り囲みます。

明日奈とシン、やっと心が通い合う

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夷族に首を掴まれて持ち上げられた時、明日奈は森崎に渡された銃を乱射します。

しかし、夷族には通じません。
首を締められ、気が遠くなりがらも、明日奈は必死に生きようとしていました。

銃声を聞きつけたシンがかけつけ、明日奈は助け出されます。
朝日が昇り、夷族は地下へ逃げていきました。

明日奈は始めてシンに礼を言おうとするが、シンは助けようとしたワケじゃなくて身体が勝手に動いただけだと言います。

はじめて近くで見て、明日奈はシュンとシンでは背の高さも髪色も目の色も違うのだと気がつきました。

そして、あらためて「シュンは死んで二度と会えない」と思い、泣いてしまいます。
シンも、亡き兄を思って涙を流しました。

シュンを弔う気持ちで、はじめて明日奈とシンは心を通じ合うことができました。

そこへ、天空から「シャクナ・ヴィマーナ」。
地上から片手のない【ケツァルトル】が【生死の門】に向かっています。

ケツァルトルは生死の門で、死ぬ前に記憶を刻む歌を歌っていました。
その歌は形を変え、空気の振動の中、生き物の身体の中に染み渡っていきます。

世界の果てまで永久に刻み込まれる。
明日奈が鉱石ラジオで聴いた音楽は「ケツァルトル=シュン」の歌だった。

リサの復活

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ケツァルトルは明日奈とシンを呑み込んで、森崎を追いかけ生死の門へ向かいます。

ケツァルトルは明日奈とシンを呑み込んで、森崎を追いかけ生死の門へ向かう。
森崎は崖を降りる間に怪我を負いますが、ケツァルトルの墓場をくぐり抜け、生死の門にたどり着きました。

「シャクナ・ヴィマーナ」が森崎の元に降臨し、無数の目を持ったアガルタの神の姿が現れます。
森崎は妻リサの復活を願います。

クラヴィスを媒介にして、リサの魂は復活するが、魂の入れ物を要求。
森崎を追いかけてきた明日奈に、リサの魂が乗り移ります。

森崎も片目を奪われてしまうことに。
明日奈の身体を介してリサは復活します。

シンは明日奈の魂を取り戻すために。クラヴィスを破壊。
明日奈はシュンとミミのいる死の世界にいたが、別れを告げて生の世界に戻ってきました。

『星を追う子ども』のラストシーン・エンディング

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森崎はリサに愛を告げるが、リサの身体は崩れていきます。

リサは幸せといいの残して消えてしまいました。
そして明日奈の魂が戻ってきます。

森崎はシンに殺してくれと訴えたが、「喪失を抱えて、なお生きろ。それが人に与えられた呪いだ。」と森崎を助けた。

明日奈は、行き続けることは祝福でもあるのだと思った。

森崎はシンと共にアガルタに残り、明日奈は地上の世界に戻っていき、いつもの日常に戻ります。

『星を追う子ども』の感想

『星を追う子ども』のキャッチフレーズは、「それは〝さよなら〟を言うための旅」。

このキャッチフレーズ通り、この映画はある少年と出会い、そして別れを経験した少女・アスナが、その気持ちを整理するまでの過程を描いた作品です。

物語の中盤でアスナが、シュンとシンという存在を混同しているのも、まだ「さよなら」が出来ていない現れです。

もう1つ、このキャッチフレーズはアスナだけではなく、そのままモリサキにも当てはまります。

アスナよりずっと明確な目的を持って、時には非情に徹してこの旅を成し遂げようとするモリサキ。

影の主人公とも言えるモリサキの視点に立って「さよならを言うための旅」を見るのも、この映画の多層的な楽しみ方です。

【星を追う子どもの考察】明日奈の孤独が伝わるリアルな日常

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冒頭部分は、ほとんど明日奈しか登場しません。
学校の授業が終わると、遊びの誘いも断って自宅に戻ります。

テキパキと家事をこなす日常。
母親と二人暮しのはずなのに、すれ違いの描写が描かれています。

台所に灯りがあって母親が早く帰ってきたと勘違い。
気持ちを弾ませながら上がると、単なる消し忘れでした。

「自宅・学校・秘密基地」の往復で、明日奈に寄り添っているのはシュンとミミだけでした。

学校や自宅で、他者とのやりとりは意図的に省略されています。
その間に「ミミ・鉱石ラジオ・クラヴィス・シュン・怪獣」と明日奈を異世界に引き込むアイテムが取り囲みます。

一緒に住んでいるはずの母親がようやく登場したのは、シュンが亡くなった後でした。
シュンと入れ替わるように、母親が登場します。

シュンが非日常の象徴なら、母親は日常の象徴です。
シュンと共に、非日常のアイテムが急速に身の回りから消失します。

秘密基地からもシュンの気配が亡くなり、シュンに会いたい思いだけが膨らみます。
そして森崎が教師として学校に現れ、アスナをアガルタの世界に誘い込むのです。

終盤、「私さびしかったんだ」という台詞にうなずけるほど、周囲との関係が希薄でした。
だからこそアガルタからの音楽やシュンに惹かれるのでしょう。

前半部分の考察「繊細な心に射し込む太陽の光」

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前半を象徴する夕暮れの描写が、急展開する物語と揺れ動く心を彩っています。
はじめて会った次の日、森で再会。
怪我を放置したままの、シュンを明日奈は手当をします。

穏やかな陽射しの中で、鉱石ラジオを聴きながらサンドイッチを頬張ります。
夕陽が沈んでいくのを見ながら、シュンのいきなりのキス。
明日奈が去った後、満点の夜空の中で死んでいくシュン。

同じ場所でありながら、一瞬一瞬で姿を変えていく自然の風景と、シュンと明日奈の心模様がマッチしてキュンと胸を掴まれるシーンになっています。

考えてみると、明日奈とシュンがいたのは2日間のごくわずかな時間でした。
計算つくされて緻密な描写で、明日奈と共に観客もアガルタへの世界へ誘われていきます。

アガルタの世界に引き込むリアルな名シーン

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明日奈がモリサキの自宅で地下世界アガルタの話を聞くシーン。

夕暮れ時に夕日が部屋に射し込んで、一瞬鮮やかに輝くと一瞬にして闇に。

この後から、ストーリーは日常から一気にアガルタへの冒険に突入します。

夕闇から朝日へ-明日奈の心の変遷

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フィニス・テラにたどり着いて、森崎は一人で崖を降りて、明日奈は一人取り残されます。
うなだれているうちに夕陽が沈んで行き、闇に潜む夷が蠢きはじめるのです。

水が苦手が夷族を避けて、浅瀬を辿って進みます。
闇夜と共に、明日奈の心は、地上で起きた出来事を思い出して涙をこぼします。

いつの間にか水が引いて、夷族に取り囲まれる明日奈。
シンが助けに来た時、朝日が射し込んで来ます。

夷族が逃げ去るとともに、明日奈の心にも迷いが消えていました。
空模様がそのまま、主人公の心とリンクして、内面をより濃く映し出すのです。

アニメーションでこれだけ自然描写を巧みに操る監督が他にいるでしょうか。
こういった細かいシーンも新海ワールドならではです。

映画『星を追う子ども』の聖地

映画『星を追う子ども』の主人公明日奈が暮らしている地域は、新海誠監督が生まれ育った長野県南佐久郡小海町がモデルと言われています。

ロケハンも小海町で行われました。

明日奈が暮らしていた地域「オブチ」はどこ?

劇中では、熊(実はケッアルトル)の出没する場所が「オブチ」と呼ばれていました。

現実にも長野県に「小渕」という地名が存在します。長野県長野市塩生乙小渕です。

しかし小渕は、小海町とちょっと離れています。

ケツァルトルとシュンが出会ったのは、山裾に伸びる線路をつなぐ鉄橋の上でした。
線路の下には川が通っていますが、この川は千曲川だと思われます。

明日奈が秘密基地へ向かう途中の線路はJR小海線だと思われます。
JRA小海線は山梨県の小淵沢から長野県の小諸までをつなぐ78.9kmの路線です。

オブチとは「小淵沢」のことではないかと推測されます。
JR小海線から見える風景は「星を追うこども」で見た背景と酷似しています。

シュンの遺体が流されて「シモノフチ」の河原で見つかっています。
勤務先の病院から帰る母親が、自動車で進む道路はカーブの多い渓流沿いです。

新海誠監督の原風景がある小海町

新海誠監督が生まれ育った小海町のホームページは、新海作品で見た四季折々の自然の風景が見られます。

こんな自然豊かな場所で育つと感性が育まれるのだなと納得です。
新海誠監督ファンなら必ず訪れるべき聖地と言えます。

関連・類似作品との比較や共通点

『星を追う子ども』の感想や評判を見聞きする時、よく見かけるのが宮崎作品との類似性です。

キャラクターが懸命に走るシーンだったり、印象的な食事シーンだったり、確かに宮崎映画をほうふつとさせる点があります。

『ルパン三世カリオストロの城』のクラリス
『風の谷のナウシカ』のナウシカ

この2作品でヒロインを務めている声優・島本須美さんを重要な役でキャスティングしているのも、宮崎作品との関連を感じさせる一要素かもしれません。

オマージュ?パクリ?ジブリやエヴァンゲリオンと比較

新海監督はインタビューの中で、「(ジブリ作品を連想させる部分は)ある程度自覚的にやっているという部分もあります」
(参考:あにこれ「新海誠インタビュー」

そのせいもあり、『星を追う子ども』は地下文明アガルタの表現がジブリ作品にそっくりです。

「いやパクリだ!」と、新海ファンにも拒否反応が起こるぐらいそっくりと言われています。

新海監督も既存作品の影響をオマージュとして隠していないので、その類似箇所を比較検証してみました。

ミミと「風の谷のナウシカ」キト

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(C)2011『星を追う子ども』製作委員会

ナウシカによりそうウサギリスのキト。そのキトをちょっとかわいくしたミミ。

あまりにも似すぎていました。

アガルタ世界の既視感

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アガルタの人々の「遺跡・衣装・髪型」などが、ジブリアニメ「ナウシカ」「ラピュタ」「ゲド戦記」と似ています。

また、敵の夷族は巨神兵や、テレビアニメ「ルパン三世」第2シーズン最終回「さらば愛しきルパンよ」に登場した装甲ロボット兵シグマの雰囲気や動きに似ています。

エヴァンゲリオンに似ているという指摘もありますが、ナウシカの時に巨神兵の作画を担当したのが、他ならぬ「エヴァンゲリオン」の監督庵野秀明さんなので、当然とも言えるかもしれません。

湖の中に文明が隠されているのは、映画「ルパン三世カリオストロの城」のカリオストロ帝国に似ています。

鉱石クラヴィスが「天空の城ラピュタ」の飛行石に

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(C)2011『星を追う子ども』製作委員会

アガルタの世界の鍵となるクラヴィスが飛行石の表現と酷似しています。

後述しますが、原型となる小説『ピラミッド帽子よ、さようなら』にも魔法の石が登場しているんです。

森崎の妻の声優が伝説のヒロイン

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森崎の妻サラの声を「ルパン三世カリオストロの城」ではクラリス。

「風の谷のナウシカ」でナウシカを演じた島本須美さんが担当していたので、宮崎アニメへの傾倒が伺えます

「新世紀エヴァンゲリオン」の影響は?

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森崎が死んだ妻を復活させようとするのは、「新世紀エヴァンゲリオン」で碇ゲンドウが亡き妻の遺伝子を使って「綾波レイ」を再生させる姿を彷彿とさせます。

しかし、本人そっくりなものを再生するのではなく、死者の魂そのものを復活させるので、ゲンドウと森崎では根本的に妻の愛しかたが違います。

森崎の妻リサへの思いの方がより深いと言えるかもしれません。

新海誠監督と宮崎駿監督の決定的な違い

『星を追う子ども』は宮崎作品に寄せているので、より新海誠監督と宮崎駿監督との作家性の違いが浮き彫りになります。

新海ワールドは、あくまでもリアルな日常が基盤です。

そこから派生する非日常に新海アニメの真髄があります。

宮崎監督は絵によって1から作品の世界観を構築しています。
「となりのトトロ」「ナウシカ」「もののけ姫」「千と千尋の神隠し」「崖の上のポニョ」
それぞれに宮崎ワールドが出現していますが、どの作品もひとつとして似たものがありません。

新海監督は『星を追う子ども』以降、ますますそのリアル感に磨きをかけていきます。

『星を追う子ども』にインスピレーションを与えた小説『ピラミッド帽子よ、さようなら』とは?

新海誠監督が『星を追う子ども』を構想する時にヒントにしたのは、子供の頃に読んだ児童小説『ピラミッド帽子よ、さようなら』でした。

『ピラミッド帽子よ、さようなら』は児童文学作家の乙骨淑子さんが1981年に発表した児童小説です。

乙骨さんは『ピラミッド帽子よ、さようなら』を執筆中、病に倒れて亡くなってしまいます。

未完で終わっていたものを、出版社の社長(小宮山量平)が完成させ、出版されました。

しかし、その結末はいかにもとってつけたような印象が強く、とても違和感があります。
新海少年にもその結末は納得いかず、自分なりの物語の続きを空想したそうです。

これが『星を追う子ども』の原型となりました。

『ピラミッド帽子よ、さようなら』のあらすじ

映画研究会に所属する中学生森川洋平は、ピラミッドのような帽子をかぶると、隣のアパートに、ないはずの部屋404号室に明かりが灯るのに気がつきます。

そこにいた少女は、映画研究会の仲間・浅川ゆりとそっくりな少女浅川ゆきでした。

ゆきに導かれて、映画研究会の仲間は地球の空洞の奥深くにある世界アガルタへ入っていきます。

『星を追う子ども』と『ピラミッド帽子よ、さようなら』の比較

まず主人公の設定。
児童文学なので、主人公は未成年(中学生)でした。

『星を追う子ども』では、主人公が明日香(女子)でしたが、『ピラミッド帽子よ、さようなら』は男子中学生の洋平でした。

瓜ふたつな2人のキャラクターが登場

『星を追う子ども』では明日香が見間違うほど似ているシュンとシンの兄弟。

実際はシュンの方がお兄さんで背も高いです。

明日香がシュンに「生きていてほしい」という願望が、シンをシュンと思い込むあたりにでています。

『ピラミッド帽子よ、さようなら』では同級生の浅川ゆりにそっくりな少女浅川ゆきが現れます。

彼女は地下世界アガルタの住人です。
主人公洋平はゆりに憧れていたので、ゆりそっくりなゆきに惹き込まれるのです。

眉村卓さん原作「なぞの転校生」「ねらわれた学園」

筒井康隆さん原作「時をかける少女」などでは、定番として同級生そっくりの異星人、異界人が現れるのがお約束でした。

『ピラミッド帽子よ、さようなら』でもその影響が大いに見受けられます。

アガルタの世界を結ぶ謎の石

『星を追う子ども』ではクラヴィスでしたが、『ピラミッド帽子よ、さようなら』では同じような石ブーヤが登場。

ピラミッドの形にはパワーがあり、ピラミッド型の入れ物に入れるとブーヤが電磁力を発します。

リニアモーターカーのように、エンジンなしで電車が走ったり空を飛べることができます。

1970年代後半は、オカルトブームが起きていました。
まだ科学で解明されてなかった事象も多く、現在で言う【都市伝説】を本気で信じる人が多かったのです。

実際ピラミッド型のものに不思議なパワーが宿っていると言われる説も流布しました。

オカルトブーム時代に流行ったアトランティスの超古代文明伝説。

地球空洞説として、地下世界に地上よりはるかに発達した文明【アガルタ】が築かれている仮説もありました。

『ピラミッド帽子よ、さようなら』が執筆された時代はまさにその真っ只中で、その仮説がふんだんに盛りこまれています。

古事記伝説の引用

『星を追う子ども』では、古事記の中からイザナギイザナミの黄泉の国伝説に基づいています。

【アガルタ】の【生死の門】は、死者さえも蘇る力を持つ神秘の場所と設定されていました。

『ピラミッド帽子よ、さようなら』にも古事記の引用があります。
それはオオクニヌシノミコトの根の国伝説でした。

オオクニヌシノミコトが兄たちの嫉妬から地上を追われ、逃げた国が根の国=地底の国だったのです。

この違いで、アガルタは死者が蘇る国。
文明が崩壊寸前の古代国家という要素を、新海監督が付け加えたものということがわかります。

『ピラミッド帽子よ、さようなら』では、【アガルタ】が「ピラミッドのパワー」と「神秘の意志ブーヤの電磁力」で、地上以上の科学技術を持った先進国のように描かれていました。

空飛ぶ船

『星を追う子ども』で【アガルタ】の天空を飛ぶ「シャクナ・ヴィマーナ」で、実はアガルタの神による仮の姿でした。

『ピラミッド帽子よ、さようなら』では、空飛ぶ乗り物【ビマーナ】は地底と地上を自由に行き来できる乗り物で、「UFO=円盤」のようなイメージです。

当時のオカルトブームの一つに空飛ぶ円盤伝説があったのですが、UFOは宇宙から来たのではなく、地底文明からやってきた説もありました。

『ピラミッド帽子よ、さようなら』は、UFO地底文明の乗り物説を採用していました。

現在はオカルトブームで言われていた説。それはほぼデタラメとわかっています。

『星を追う子ども』では、オカルト的な要素がほとんど排除されています。

また、古事記の神々の伝承をモチーフにする手法は、『星を追う子ども』1作だけでなく『君の名は。』『天気の子』につながる新海ワールドに大きな影響を与えています。

『星を追う子ども』『ピラミッド帽子よ、さようなら』の違う点

『星を追う子ども』と『ピラミッド帽子よ、さようなら』で決定的に違うのは、『ピラミッド帽子よ、さようなら』では主人公「洋平」が常に映画同好会の仲間と行動していること。

『星を追う子ども』の主人公明日奈はいつも一人で孤独であることです。

明日奈は地上では基本一人ぼっちなので、【アガルタ】の人々により前のめりになるのです。

『星を追う子ども』の評価

星を追う子ども
(C)2011『星を追う子ども』製作委員会

映画「星を追うこども」は冒険ファンタジーということもあり、新海誠監督作品の中では異色の世界観です。ここに賛否両論があります。

しかし、日本の神話や伝承を現代にアレンジしたり、自然豊かな田舎を舞台にするなど、後の作品に大きな影響を与えていそうです。

どこかで見た懐かしさのある風景やファンタジーな世界観は、新海監督ならではの美しい世界が広がっています。

この作品がなければ『君の名は。』『天気の子』はなかったのではないでしょうか。

まだ観てない方には、おすすめしたい作品です。

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