新海誠監督の映画『ほしのこえ』のあらすじ・ネタバレ・考察!デビュー作はほぼ一人で制作!

ほしのこえ
(C) 新海誠 / Comix Wave

映画『ほしのこえ』。
今や有名となった新海誠監督のデビュー作は、ほぼ一人で制作し、当時の日本人の常識から外れた作品でした。

今回は映画『ほしのこえ』の考察を交えながら、「あらすじ(ネタバレ)」「声優」などを紹介していきます。(本記事の内容は以下のとおり)

  • 映画のあらすじや概要
  • 『ほしのこえ』のネタバレ紹介
  • 考察ポイントを解説

「あらすじ」だけ知りたい方は、作品概要見どころだけご覧ください。

「ネタバレありで読みたい!」方は最後までご覧いただき、動画配信サービスで視聴したい方には、以下ページで無料視聴の方法を解説しています。

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[caption id="attachment_6179" align="aligncenter" width="640"] (C) 新海誠 / Comix Wave[/caption]新海誠監督のデビュー作『ほしのこえ』。繊細かつ[…]

ほしのこえ

映画『ほしのこえ』の作品概要

ほしのこえ
(C) 新海誠 / Comix Wave

『ほしのこえ』は、携帯電話のメールをモチーフにしたSFロボットアニメです。

「私たちは、たぶん、宇宙と地上にひきさかれる恋人の、最初の世代だ。」

まだスマホも普及していなく、インターネットやケータイがやっと当たり前になってきた時代。

「タルシアン」と呼ばれる異生命体を調査するため、国連軍の選抜メンバーに選ばれた「中学生のミカコ」「地球に残ったノボル」の物語です。

新海作品は「孤立・寂しさ・心細さ」を持ち合わせたヒロインが多く、本作も同様になっています。

公開日2002年2月2日
上映時間25分
興行収入
監督・脚本
映像・制作
新海誠
音楽天門
キャスト(声優)鈴木千尋 武藤寿美 DonnaBurke(ドンナ・バーク)
予告(YouTube)『ほしのこえ』予告編
公式サイト『ほしのこえ』公式
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映画『ほしのこえ』の見どころ※ネタバレなし

今ではイメージと違う?本格SFロボットアニメのような世界設定
『ほしのこえ』はミカコとノボル、2人の中学生を主人公にしたラブストーリーです。ただし、世界設定はけっこうシリアス。


時代は2039年。物語内の地球は異生命体の脅威にさらされています。火星で異文明の遺跡を発見した探査チームが、異生命体の攻撃で全滅してしまったのです。この設定が、後にミカコとノボルの運命に大きな影響を及ぼします。


異生命体を調査するために、国連宇宙軍が4隻の戦艦を建造して、乗船する選抜メンバーを募集している・・・という序盤のストーリーをしっかり把握していると、この作品をしっかり楽しめます。
現代でも共通!中学3年、進路が分かれる時期
仲のよい中学生活を過ごしていたノボルとミカコ。卒業後の進路で2人は分かれます。ノボルは高校へと進学しますが、ミカコは国連宇宙軍が組織した異生命体探索の選抜メンバーに選ばれるのです。


もちろん現代に「宇宙へ行く」選択肢はありませんが、目標や進路が違うために、恋人・友達と離れ離れになってしまうのはよくあること。


未来の話でありながら、現代にも通じる普遍性を持った展開が興味を引き立てます。
どんどんスピードが変わっていくメールの返信
地上と宇宙。とてつもなく遠大な距離に離れてしまったミカコとノボル。2人は携帯のメールで連絡を取り合っていますが、どんどんやり取りが遅くなってしまいます。


ミカコの乗る艦隊が地球から離れる距離に比例して、メールの到着に時間がかかってしまうのが原因です。しかも艦隊には、ワープ航行ができる技術もあります。


光速より早く進むワープが行われると、2人の距離は決定的な遠さになってしまうのです。そんな切なさを持った2人のメールのやりとりは、視聴者の心に迫るでしょう。

『ほしのこえ』ネタバレあり!のあらすじ紹介!

ここからは、映画『ほしのこえ』のネタバレ(あらすじ)を紹介していきます。

まだ観ていない方は注意してください。

物語の設定と2046年の日本に生きるミカコとノボル

ほしのこえ
(C) 新海誠 / Comix Wave

近未来の世界、2039年。
宇宙への有人探査が現実になった世の中―。

火星へと向かった有人探査チームが、異なる文明の遺跡を発見。そこで、未確認の異生命体-タルシアン-に全滅させられるという衝撃的な出来事が起きます。

タルシアンは人類をしのぐほどのテクノロジーを有していました。
そしてタルシアンの遺跡は、ワープポイントであり、宇宙に複数存在していることも判明します。

2039年の段階では、タルシアンのテクノロジーを発見することによって、人類は科学的に大きな進歩を果たし、恒星間を航行することができるようになりました。

その7年後の2046年。

本作の主人公である長峰美加子(以下、ミカコ)と寺尾昇(以下、ノボル)は、関東の中学校に通っています。部活も同じで、仲のよい2人は淡い恋をしていますが、まだ相手には言えません。

しかし、いつまでも続いてほしかった2人の関係は、突然の終了を宣告されます。ミカコが、国連軍の選抜メンバーに選ばれたのです。

国連宇宙軍は戦艦を4隻建造し、世界から1000名以上を選抜。調査団を作る計画を持っていました。

人類の科学的進歩を促進したタルシアンの遺跡を調査するためです。

2047年、2人の関係は続きながら、ズレていく

ほしのこえ
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翌年の2047年。
ミカコは国連宇宙軍の調査に参加するため、地球から旅立っていきましたが、ノボルは普通の高校生として日常を過ごしています。

一応、連絡は取れていました。
携帯メールのように連絡を取り合うことができる「超長距離メールサービス」があったから。

しかし、それが満足に機能したのも最初のうちだけです。

ミカコが搭乗するリシテア号は、地球から遠く離れていくにつれ、メールの到達がどんどん離れていってしまいました。

ミカコの所属するリシテア艦隊は、なにも成果を得られないまま半年が経ち、冥王星軌道に接近します。

「地球に帰って、ノボルとの楽しい日々をまた過ごしたい」
ミカコの願いが、メールでノボルに送信されます。

そんなとき、タルシアンがリシテア艦隊と遭遇してしまいました。タルシアンとの戦闘状態に陥ったリシテア艦隊。

ミカコもトレーサーと呼ばれる人型機動兵器。いわゆるガンダムのようなロボットでタルシアンと戦いますが、テクノロジーの差は歴然。

リシテア艦隊はタルシアンとの戦闘から撤退するため、タルシアンのテクノロジーを応用した技術でワープします。

ミカコはなんとか命拾いをしましたが、メールの到達時間はさらに1年も開いてしまいました。

そして、司令部から届いた指令が、ミカコを絶望に突き落とします。
「さらに8.6光年先のシリウス星系まで行け。ただし、帰りのワープ地点は見つかっていない」

ノボルの決意

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(C) 新海誠 / Comix Wave

ミカコとのやりとりを楽しみにしていたノボルですが、ミカコからのメールは届きませんでした。

メールが来ないことにいら立ちを隠せなかったノボルは、いつしか待つことをやめてしまいます。

そんなとき、雨が降るバス停で雨宿りをしているノボルに、ミカコからのメールが届きました。

「ねえ、私たちは、宇宙と地上にひきさかれる、恋人みたいだね。」

宇宙空間という広大な空間がもたらす時間差により、引き裂かれた悲劇的な2人の関係。

ノボルはミカコを思い出し、一人でも生きていけるような強い人間になるという決意を強くしたのでした。

『ほしのこえ』ラストシーン・エンディング

それから8年半。2056年、24歳になったノボルは、15歳のミカコからのメールを受け取りました。

ミカコはシリウス星系に無事到着し、第四惑星のアガルタというところで調査を開始します。

「24歳になったノボルくん、こんにちは!私は15歳のミカコだよ。ね、わたしはいまでもノボルくんのこと、すごくすごく好きだよ」

メールを送ったミカコのもとに、タルシアンが再度出現します。

今度は以前遭遇した時をはるかにしのぐ、多くのタルシアンの一群でした。ミカコは艦隊を守ろうと必死に応戦しますが、そこに現れたのは巨大タルシアン。

死闘を繰り広げたミカコは瀕死の重傷を負いつつも、撃退に成功しました。

一方、ノボルに宛てた15歳のミカコからのメールは、「24歳になったノボルくん、こんにちは!私は15歳のミカコだよ。」という部分以外、ノボルには届いていません。

しかしミカコの想いは届いていました。ノボルは、国連宇宙軍の艦隊で勤務し、ミカコに会いに行こうと決意を固めたのでした。

ミカコとノボルは知っています、2人は想い合っていることを。

2人は夢見ます、2人の再会を。

映画『ほしのこえ』の感想

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(C) 新海誠 / Comix Wave

『ほしのこえ』の魅力は二面性にあります。

SFマインドを感じさせるロボットアニメの部分がありながら、メインストーリーは「遠距離恋愛である」というところです。

一見相容れなさそうな「SFロボットアニメ」と「遠距離恋愛」が、この作品では見事に融合しています。

もう1つ特筆すべき点が、小道具に使われることが多い携帯メールを、作品の主軸に置いたことです。

『ほしのこえ』制作当時は、ちょうど携帯メールが普及しはじめた頃。アニメで携帯メールに焦点を当てた作品としては、最初期に位置する作品ではないでしょうか。

関連・類似作品との比較や共通点

『ほしのこえ』は、新海監督の名前を世間に広めた初劇場作品です。

往年のロボットアニメ『機動戦士ガンダム』や『新世紀エヴァンゲリオン』と似た設定です。

単館上映でしたが、ネットで評判を呼び、大塚英志さんなど著名人が称賛したこともあって、人気がどんどんと広まっていきました。

『ほしのこえ』は、「監督・作画・脚本・美術・撮影」など、音楽以外のすべてを新海監督1人で手掛けたことも話題になりました。

1人の人間だけであのような壮大な世界を創造したということは、やはり素晴らしい才能と言わざるをえません。

2作目『雲のむこう、約束の場所』からは、制作体制も普通のアニメと同じ分業制になっています。

そのため、本作では画面の隅々まで新海監督の個性があふれています。その世界観にある「時空を超えた恋」を楽しんでください。

新海誠監督が得意とする「ズレ」を描いた作品

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新海誠監督はSF的な設定を得意とし、「ズレ」を描くのが得意な作家であると言えます。

時間や時空の「ズレ」は、それぞれの作品の設定で考えられており、大ヒットした『君の名は。』でも、瀧(タキ)と三葉(ミツハ)の時間が「ズレ」ています。

本作は、いつでも送れる携帯メールという当時最先端の機能を逆に利用し、「いつでも届くはずのメールが届かない」という演出でドラマの効果を高めています。

『ほしのこえ』考察!ミカコは死んだのか!?(ネタバレあり)

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映画版のラストでは、2人の想い合う姿が描かれたまま、「ミカコは死んでしまったのか?」という点がわかりません。

明確に結末が描かれているのは、SF作家の大場惑さんによる小説版「ほしのこえ The voices of a distant star」です。

しかし、実は映画でもノボルの部屋にある新聞に、「帰還の可能性はリシテア号一隻か」と掲載があります。

また、SF作家の大場惑さんによる小説では、ミカコの生きているところが描かれ、リシテア号は地球へと向かっている描写も。

その後、艦隊勤務となったノボルがリシテア号の救助艦に搭乗し、救助艦内で2人は夢に見た再会を果たします。

この描写からも、「ミカコが生きている」ことがわかります。

『ほしのこえ』は多数の映画賞を受賞!

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新海誠監督のデビュー作『ほしのこえ』の公開日は、2002年の2月2日。
2が並ぶ記念すべきこの日に、短編映画専門の映画館「下北沢トリウッド」でひっそりと上映されます。

本作は、新海誠が「監督・脚本・映像・制作」を一人で担当したことが話題となり、ミニシアター系であったにもかかわらず、ヒットを記録したフル・デジタル・アニメーション映画なのです。

第6回文化庁メディア芸術祭アニメーション部門では特別賞。
第34回星雲賞では「映画演劇部門・メディア部門・アート部門」の3部門を受賞し、計8つの映画賞を受賞しました。

『ほしのこえ』の小説の紹介!その他メディアミックスも!

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『ほしのこえ』は、今や主流となったメディアミックスアニメでも成功しました。さまざまな媒体で作品が製作され、映画以外の作品では5つ存在します。

小説が2作と漫画が1作、ドラマCD1作、そして舞台として1作です。それぞれ見ていきましょう。

小説版『ほしのこえ』

小説版『ほしのこえ』は2作存在します。

SF作家大場惑さんの小説「ほしのこえ The voices of a distant star」は、2002年に出版されました。

最初は、メディアファクトリーのMF文庫Jから、その後、MF文庫ダ・ヴィンチ、角川文庫、角川つばさ文庫からも発売されました。

もう一つの小説は、新海誠監督の映画作品のノベライズを5つも担当している加納新太さんの小説「ほしのこえ あいのことば / ほしをこえる」です。

新海誠監督のパートナーと呼ぶべき加納新太さんの小説は、大場惑さんのものよりも、より新海誠ワールドを伝えていると言えるでしょう。

そして、ミカコとノボルのそれぞれの立場が映画より細かく描かれています。

『ほしのこえ』のその他メディアミックス!

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小説以外にもさまざまな作品が本作から生まれました。まずは、マンガです。

佐原ミズさんの作画したコミックが、講談社アフタヌーンKCから2005年に出版されました。(参考:ほしのこえ ※KCデラックス
※佐原ミズさんは、2009年にドラマ化されたマンガ『マイガール』の作者としても有名です

『ほしのこえ』は、計54分の7トラックで収録されたドラマCD化もされています。

パイオニアLDCから2002年に発売された本作では、声優の武藤寿美さん、ゆかなさん、山本麻里安さん、野島健児さん、鈴木千尋さん、関智一さんが参加しています。

舞台では、2015年に劇団ユニットキャットミント隊が「朗読×劇」という新しいスタイルでの上演をしました。ミカコ役・ノボル役はそれぞれトリプルキャストです。

女優の小松未可子さん、アイドルの根岸愛さん、元モーニング娘。の新垣里沙さんが演じています。

小松未可子さんも元アイドルなので、ミカコ役はアイドルの方が演じた形です。

そしてノボル役は、俳優の井上正大さん、河原田巧也さん、声優の梅原裕一郎さんが演じています。

『ほしのこえ』の評価

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『千と千尋の神隠し』が日本歴代興行収入の記録を塗りかえ、300億円の興行収入を記録した翌年(2002年)に本作品が生まれました

『ほしのこえ』は25分という短い作品でありながら、壮大な世界観を伝え、登場人物の葛藤を描き出すことに成功しています。

ただし、ほぼすべて自分で制作しており、デビュー作でもあるため、作画の粗さは目につくかもしれません。

しかし、その後の作品につながるモチーフが本作に集約されています。本作の評価には直接関係ありませんが、『ほしのこえ』の評価を押し上げる点でもあります。

今や日本を代表するアニメ監督になった新海誠監督。デビュー作を観て、「そうなるであろう」ことを予想された方がいるのではないでしょうか。

今では色あせたように見え、監督自身が「封印したい作品」と言っていますが、『ほしのこえ』がなければ今の新海誠はいないかもしれません。

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