セカイ系を視点とした映画『天気の子』の考察。新海作品の主人公たちが選んできた「世界」と「彼女」の二択

天気の子
(C)2019『天気の子』製作委員会
新海誠監督の7作目となる劇場用アニメーション作品『天気の子』。

前作『君の名は。』に負けないほどのヒット作となりました。

その『天気の子』を、「セカイ系」という観点から分析していきたいと思います。

「セカイ系」という視点で、『天気の子』のエンディングは新しい形となっているのでは?
その考察について解説していきます。

「セカイ系」の作品とは

そもそも「セカイ系」とはどういう作品のことをさすのでしょうか。

Wikipediaによると、この言葉ができたのは2000年代前半のようです。

定義はあいまいで、人によって意味も使い方もそれぞれ変わってきます。

今回の記事ではおおむね、「主人公の行動が現実世界の大きな情勢・危機に直結している」という意味で使っていきます。

「セカイ系」作品の具体例

「セカイ系」は『新世紀エヴァンゲリオン』の放映後に見られるようになってきた作品群、との指摘もあります。

「セカイ系」の具体例として、Wikipediaでは以下の作品があげられています。

  • 『最終兵器彼女』
  • 『イリヤの空、UFOの夏』
  • 『ブギーポップは笑わない』シリーズ

そして同じように「セカイ系」の代表例として挙げられているのが、新海監督の劇場デビュー作でもある『ほしのこえ』です。

ただ、新海監督自身はツイッター上で下のように発言しています。

新海監督自身では、意図的に「セカイ系」の作品を作ろうとしているのではなく、「自然にそうなっていく」ということでしょうか。

「セカイ系」に分類できる新海作品

『君の名は。』
(C)2016『君の名は。』製作委員会

新海監督の劇場用作品は現時点で7本あります。
(参考:新海誠監督のアニメ映画作品一覧

そのうち「セカイ系」に分類できそうなのは、以下の4作品です。

  • 『ほしのこえ』
  • 『雲のむこう、約束の場所』
  • 『君の名は。』
  • 『天気の子』

各作品がどのような「セカイ系」の作品だったのか、解説していきましょう。

劇場デビュー作『ほしのこえ』

ほしのこえ
(C) 新海誠 / Comix Wave

『ほしのこえ』は新海監督の名前を有名にした「初めての劇場用アニメ作品」です。
脚本・作画・監督など、音楽以外のほぼ全てを新海監督が手掛けたことで話題を集めました。

この作品は、地球外知的生命体「タルシアン」の脅威にさらされている日本が舞台です。

人類が絶望的な危機にある中、主人公とヒロインは「地球」と「宇宙」で離れ離れになります。
ヒロインが、タルシアン調査隊の選抜メンバーに選ばれたためです。

世界の情勢が、そのまま少年少女2人の関係変化に直結しているため、「セカイ系」に分類される理由の1つとなっています。

(参考:『ほしのこえ』あらすじ・ネタバレ解説はこちら

『天気の子』と類似性もある『雲のむこう、約束の場所』

雲のむこう、約束の場所
(C)2004『雲のむこう、約束の場所』製作委員会

「セカイ系」という視点で見た場合、『天気の子』ともっとも似た構図を持っているのが、2作目となる『雲のむこう、約束の場所』です。

今作でのヒロインは、「世界の破滅を防ぐ存在」として、ある場所で「ずっと眠っている」状態です。ヒロインが目を醒ますと、世界は消滅してしまう危険性があります。

「ヒロインを目覚めさせるか」
「人身御供になってもらい続けるか」

主人公には、この二択が提示されます。

そして主人公は、「ヒロインを目覚めさせる」を選択します。
その結果、北海道の一部は消滅しましたが、「ある手段」を用いて世界消滅を回避しました。

(参考:『雲のむこう、約束の場所』あらすじ・ネタバレ解説はこちら

選択に悩む必要がない『君の名は。』

君の名は。
(C)2016『君の名は。』製作委員会

『君の名は。』では、主人公はヒロインの命をすくおうと、隕石落下の被害を最小限に食い止めるために行動します。

隕石落下はすでに起こっている出来事ですが、ある方法を試みて回避しようとするのです。
「ヒロインをすくうこと」が、そのまま「大災害から多くの人を助ける」ことに繋がっています。

ここでは相反する事柄でないため、主人公は迷うことなく行動に移っています。
(参考:『君の名は。』あらすじ・ネタバレ解説はこちら

『天気の子』終盤で提示される二択

『天気の子』考察
(C)2019『天気の子』製作委員会

そして『天気の子』です。
劇中の終盤、ヒロイン陽菜は「天気の巫女」として人柱になる危機がおとずれます。

陽菜を助けたら晴天は無くなり、その地域では雨が降り続けることになります。
物語の舞台である東京は、水没してしまうかもしれません。

主人公の森嶋帆高には、2つの選択肢が提示されます。
「東京を犠牲にして、陽菜を助けるか」
「陽菜を犠牲にして、東京をすくうか」

過去の新海作品を参考にすると、主人公の行動は「東京を犠牲にして、陽菜を助ける」です(そうしないとドラマにならないせいもあるでしょうが…)。

そして実際、『雲のむこう、約束の場所』の主人公がそうであるように、『天気の子』主人公の帆高も「世界」より「ヒロイン」を選択します。

そして変わる「世界」

『雲のむこう、約束の場所』と『天気の子』が違うのは、ここからです。

『雲のむこう、約束の場所』では世界消滅する危険性があっても、「ヒロインを目覚めさせる」ことを選択します。

しかし、ヒロインを選択しながら世界の消滅を防ぐことにも成功しています。

つまり結果的には、「どちらも選んだ」ことになるわけです。

ところが『天気の子』ではそうなりません。

ある意味、『雲のむこう、約束の場所』における「世界の結末」は、ご都合主義的な要素もありました。

『天気の子』では帆高が陽菜を選んだ結果、雨が降り続けて東京の一部が水没してしまいました。「ヒロイン」を選んだ結果、「世界」が害を受けたのです。

これは、今までの新海作品とは違う結末です。

「恋愛感情」を優先したことにより、世界に害が及んだことを描写。
新海作品が、また新たな一歩を踏み出した印象を受けました。

「世界」と「彼女」の二択を提示されて、ヒロインを選ぶのは美しいです。
ただし、過度な恋愛賛歌や安っぽい感動ものに陥ってしまう危険性もあります。

『天気の子』はラストシーンによって、その危険を回避しました。この視点(セカイ系の視点)から、『天気の子』を見直すのも面白いかもしれません。
(参考:『天気の子』あらすじ・ネタバレ解説はこちら

今後はどのような「恋愛」の面を描くのか

『天気の子』考察
(C)2019『天気の子』製作委員会
新海監督は「恋愛」のイメージが強い監督です。
『天気の子』でも、青春期の一途でみずみずしい恋愛が描かれています。

一方で、東京を水没させることで、ただ美しいだけではない「恋愛」の別な面も見せてくれました。

今後はどんな選択肢を主人公に突き付けて、そしてキャラクターはどのような行動を選ぶのか?今後の新海作品にも注目したいです。

『天気の子』をもっと楽しむ!