
2015年7月11日に公開された本作は、公開直後から爆発的な人気となり、日本アカデミー賞の「最優秀アニメーション作品賞」を受賞しました。
今なお愛され続けている大ヒット作です。キャッチコピーは「キミとなら、強くなれる」。
監督は細田守さんで、『時をかける少女』や『サマーウォーズ』などを手掛けたヒットメーカーです。
2018年に公開された「未来のミライ」でも、アカデミー賞の「長編アニメ映画賞」にノミネートされたことで話題を集めました。
今回の記事では、細田守監督の映画『バケモノの子』を紹介し、以下の内容を解説していきます。
- 映画のあらすじや概要
(ネタバレなしで読むならこちら) - ネタバレ解説
(ネタバレありで読むならこちら) - ラストシーン・エンディング
(結末だけ読むならこちら)
「あらすじだけ知りたい!」という方は、作品概要と見どころだけを、「ネタバレありで読みたい!」という方は、ぜひ最後までご覧ください。
映画『バケモノの子』の作品概要・キャスト・スタッフ
物語の舞台はバケモノの街「渋天街」。迷い込んでしまった孤独な少年・九太(きゅうた)」と嫌われ者の「バケモノ・熊徹(くまてつ)」。
いつも喧嘩ばかりの二人ですが、互いに認め合い深め合った絆を感じさせてくれます。
本作はアクションが非常に豊富で、冒険活劇と成長物語を描きながらも、人間とバケモノにおける「親子の絆」がテーマになっています。
公開日 | 2015年7月11日 |
---|---|
上映時間 | 2時間 |
興行収入 | 58.5億円 |
監督 | 細田 守 |
主題歌 | Mr.Children |
音楽 | 高木正勝 |
キャラクター デザイン | 細田守 山下高明 伊賀大介 |
キャスト | 宮崎あおい 染谷将太 役所広司 広瀬すず 大泉洋 リリー・フランキー |
予告 (YouTube) | 『バケモノの子』予告編 |
公式サイト | 『バケモノの子』公式 |
映画『バケモノの子』の見どころ※ネタバレなし
細田監督は公式ホームページで、「あらゆる世代が楽しめる清々しい映画を目指します」と明言しているほどです。
お互いの親がライバル同士。それもあって、一郎彦はなにかにつけて九太と張り合います。一郎彦は九太の「あり得たかもしれない、もう1つの可能性」。視聴者は九太と熊徹の「親子関係」に注目すると思います。
しかし、表裏一体のような九太と一郎彦の関係にも注目することで、『バケモノの子』はいっそう深みをもつ作品となるでしょう。
『時をかける少女』以降は、あまりアクションシーンのイメージがない細田監督。しかし、もともとは『ゲゲゲの鬼太郎』や『ONE PIECE』にも参加していました。そういった過去からも、戦闘シーンも魅せてくれます。
『バケモノの子』では、「熊徹とライバル・猪王山の決闘」「クライマックスのシーン」など、アクションは見ごたえたっぷり!渋谷を舞台にしたクライマックスシーンは、迫力満点です。
映画『バケモノの子』のあらすじとネタバレを解説!
それでは、『バケモノの子』のストーリーを紹介していきます。
本編の「ネタバレ・結末」にも触れていくので、「ネタバレは困る」という方は読まないようにしてください。
10万のバケモノが住む街「渋天街」

「お前らほんとに困ったやつらだな。だがどうしても知りたいなら俺たちが話してやるか」
「ほら、そこに座ってちゃんと聞きなさい」
物語は、二人のバケモノによる独特な口上から始まります。話によると、ここは10万のバケモノが住み着く街、「渋天街(じゅうてんがい)」。
長年街を束ねてきた宗師様が引退し、神様に転生すると宣言されました。そのため、街を束ねるために新しい宗師を決める必要があります。
その条件は、強さ・品格共に一流であること。候補に挙がったのは二人のバケモノでした。
最有力候補とされているのは猪王山(いおうぜん)。冷静沈着・勇猛果敢、誰もが強さ・品格共に一流と認め、多くの弟子と二人の子をもつバケモノです。
住民の間でも、次の宗師は猪王山に間違いないともっぱらの噂でした。
そして、もう一人候補として挙がったのは熊徹(くまてつ)。底なしの体力と俊敏さで、力だけでは猪王山をも凌ぐと噂されるほどの腕前を持っています。
しかし、熊徹は粗暴で自己中心的な性格であり、弟子も息子もいませんでした。
渋天街へと迷い込む、母を亡くした孤独な少年「蓮」

舞台は移り変わり、夜も更けた渋谷の街。9歳の少年である蓮は、事故により母親を亡くし、失意の底にいました。
後見人の親戚に対しても怒りの感情をぶつけ、一人で生きることを決意し、渋谷の街に潜んでいたのです。(父親はすでに離婚していませんでした)
行くあてもなくうなだれていた蓮に、2つの不思議な出会いがありました。
一つは、ネズミのような小動物「チコ」との出会い。チコは蓮に懐き、寄り添うことで孤独を癒してくれるようでした。
二つ目の出会いは、たまたま人の街を見に来ていた「熊徹」との出会い。宗師になるため弟子を探していた熊徹は、うなだれている蓮に対し、「ついてくるか」と声をかけます。
その獣のような容姿に驚く蓮でしたが、つい気になってしまい追いかけます。熊徹の影を追い、細いビルの間を抜け、不思議な路地を抜けた先には、数多の異形のバケモノがおりました。
ここが、バケモノの住む街「渋天街」だったのです。
「こいつは今から俺の弟子だ!」
渋天街で熊轍と再会した蓮は、「こいつは今から俺の弟子だ!」と宣言してしまいます。
熊徹の友である、多々良(たたら)と百秋坊(ひゃくしゅうぼう)からも、人間の子どもを弟子にするのはやめるよう説得されるものの、頑固な熊徹は聞く耳を持ちません。
熊徹の家に連れていかれた蓮でしたが、弟子になることを拒否し、名前を聞かれても答えませんでした。
そこで、年齢が9歳であることから「九太」と名付けられます。その粗暴ぶりに呆れながらも、行くあてのない九太は熊轍の家で一晩を過ごすのでした。
翌朝、熊徹との口論の果てに家を飛び出した九太でしたが、偶然にも熊徹と猪王山が話している現場に立ち合います。
猪王山曰く「人間は胸の奥に闇を宿す」、そのため九太をすぐに人間界へ連れ戻せとのことでした。聞く耳を持たない熊徹は、猪王山に決闘を挑みます。
決闘においても礼を重んじる猪王山に対し、傍若無人な振る舞いを見せる熊徹。勝負は終始猪王山のペースで進み、住民からの歓声も猪王山を応援するものばかり。
しびれを切らした九太が熊徹に檄を飛ばすも、呆気なく敗北してしまいます。宗師様の仲裁により、渋天街にいることを許された九太は、熊徹の強さを認めて弟子になることを受け入れるのでした。
互いに成長し合う。未熟な二人の不思議な関係

翌朝から稽古をはじめた二人ですが、口論ばかりでうまくいきません。
そんな矢先、熊徹は九太を連れて各地の賢者の下に赴く旅へ出るよう、宗師様より指示されます。
多々良と百秋坊を加えた4人は各地にいる賢者の下へ赴き、「強さとは何か」を尋ね回りました。
その道中、二人はお互いを罵り合いながらも、苛立ちの対象は己の未熟さへ。
九太は、熊徹が親や師匠もなく孤独に強くなったこと、それゆえに適切な助言ができないことを知り、「意味は自分で考えろ」と言われたことを深く考えます。
一方熊徹は、九太に対しうまく教えることのできない自分に苛立ち、子どものころの自分が「本当はどうしてほしかったのか?」を考えはじめるのでした。
一から習うことを決めた九太は、暇さえあれば熊徹の動きを真似するように。心意気を認めた熊徹もそれを黙認し、奇妙な修行がしばらく続きました。
九太の動きは徐々に洗練され、体さばきはあっという間に熊徹を凌駕。その後も二人は、お互いを高め合うように修行の日々を過ごし、8年の月日が経ちました。
17歳になった九太は、渋天街でも有名な剣士と成長します。熊徹の下へは、弟子希望者が絶えず訪れる日々となっていました。
しかし二人の関係性は相変わらずで、お互いを認めながらも日々いがみ合いの毎日でした。
そんなある日、九太が熊徹から逃れるために迷い込んだ路地の先は、なんと渋谷の街だったのです。
たどり着いた先は、人間の街「渋谷」

8年ぶりの人間界に戸惑いながらも、興味本位で街を歩く九太。そんな中、図書館で「楓(かえで)」という少女と出会います。
楓は九太に興味を持ち、読み書きを教えるという約束で二人の交流が始まりました。九太は人間界へ行っていることを悟られないよう、熊徹の目を盗んで二重生活を送る日々。
楓は九太の学習意欲と覚えの速さに感心し、大学進学を進めます。色々なことを知りたいと願う九太も、やがてその道に憧れを抱くように。
高校認定試験の手続きを進めていく中で、生き別れになっていた父親の所在が判明しました。父親と再開した九太は、そこで自分が行方不明となっていたこと、父親が長年探し続けていたことを知ります。
本来あるべき普通の生活に思いをはせながらも、熊徹のことを思い、苦悩するのでした。
話をしようと家に帰ると、寝床に隠していた数学の教科書が発見されており、熊徹から一方的に問いただされます。
話を聞かない熊徹に業を煮やした九太は、大学へ行くこと、本当の父親と暮らすことを一方的に告げ、渋天街を後にするのでした。
心の闇に飲まれる九太、それを救ったのは
熊徹との決裂により心は晴れないまま、九太は再度父親のもとへ向かいました。
しかし優しく接する父親に対し、八つ当たりのような感情をぶつけてしまい、自らに対するいら立ちが募ります。
夜の渋谷に逃げ込みましたが、精神の安定を失い、心に闇を宿してしまいます。そんな自分を自覚しながらも、逃げるように夜の図書館へたどり着くと、そこには楓が待っていました。
自分を失い、「俺は一体なんなんだ、人間か、バケモノか」と迫りくる九太に対し、楓は励ましの言葉とお守りのミサンガを送ります。楓の言葉によって自分を取り戻し、渋天街へ戻ることにした九太。
しかし渋天街に戻ると、いつのまにやらお祭りムード一色。宗師様のお達しにより、猪王山と熊徹の次期宗師を決める戦いが明日に迫っていたのでした。
熱すぎる戦い!!次期宗師決定戦!!

次期宗師を決める戦いは渋天街の大きな闘技場で行われ、まさにお祭りの様相を呈していました。
街中のバケモノたちが勝負の行く末を見届けるために集まり、両陣営は大勢の弟子を引き連れます。
しかしそこに九太の姿はなく、熊徹も心ここにあらず。試合は始まりますが、熊徹は闇雲にぶつかるばかりで、終始猪王山のペースです。
体力も尽きた熊徹は、あっさり猪王山に倒されてしまいます。勝負が決まりかけたその時、群衆の中で見ていた九太が熊徹を叱咤激励!
大群衆の前で罵り合いながらも、熊徹は気合と冷静さを取り戻します。本来の動きを取り戻した熊徹は猪王山を倒し、勝負が決しました。
二人で勝ち取った勝利、九太と熊徹は皮肉を言い合いながらも健闘をたたえ合います。
しかしその時、熊徹の背中に突き立てられたのは猪王山の刀でした。
ラストシーン・エンディング「最終決戦!!一郎彦を止めろ!!」

熊徹に刀を突きさしたのは猪王山の息子、「一郎彦」でした。一郎彦は猪王山の負けを認めず、念道力を操り熊徹の体に刀を突き立てたのです。
さらに一郎彦は、九太と同じように心の闇を露わにし、人間であったことが明らかになります。
一郎彦は、猪王山が人間界へ出かけた際に拾ってきた捨て子であること。バケモノの子として育てられたものの、周囲と異なる容姿に心の闇を広げていったことが判明しました。
心の闇を解き放った一郎彦は姿をくらまし、熊徹は生死の境を彷徨います。一郎彦のことを他人事と思えない九太は、決着をつけるべく、周囲の反対を押し切り渋谷の街へ。
渋谷で九太を見つけた一郎彦は、周囲を気にせず暴れまわり、多くの人が巻き添えになってしまいます。
楓に連れられ、人のいないところまで一郎彦をおびき寄せた九太でした。
しかし強大すぎる敵になす術がなく、自らを道連れに一郎彦の闇を取り取り除こうと決意。
そのとき、熊徹の声と共に空から真っ赤に燃える大太刀が降ってきました。なんと、それは宗師となった熊徹が九太に力を貸すべく、付喪神(つくもがみ)となった姿だったのです。
心に大太刀を取り込んだ九太は、冷静さを取り戻し、一郎彦の隙をついて闇を撃退することに成功しました。
その後、九太は渋天街を出て、父親と一緒に蓮としての生活をはじめます。心に熊徹という剣を持った剣士として、この先どんな困難にも立ち向かえる強さを手に入れたのでした。
『バケモノの子』結末・感想
『おおかみこどもの雨と雪』で、「母親と子ども」の関係を描いた細田監督。
続く本作『バケモノの子』で監督が挑戦したのは、「父親と子ども」でした。
孤独に生きている人間の少年・蓮が、バケモノの熊徹に育てられる物語。
本来は赤の他人であり、「種族」すら違う2人が、やがて本物以上の「親子」になっていく過程を丹念に描いています。
熊徹が現代の父親像とは少し違う、やや古いタイプであることは「バケモノらしい」魅力とも捉えられるでしょう。
また、参考文献としてあげられている中島敦『悟浄出世』『悟浄歎異』が、どのように消化されているのかも見どころです。
2作品とも短編なので、『バケモノの子』ファンは読んでみることをオススメします。読後に映画を見ると、理解度がより深まるでしょう。
関連・類似作品との比較や共通点
本職の声優さん以外に、女優・俳優さんをキャスティングする傾向があった細田監督。
本作以外にも『時をかける少女』や『サマーウォーズ』など、旬の俳優からベテランまで、さまざまな人がキャスティングされています。
たとえば『サマーウォーズ』では、主役以外にも谷村美月さんや富司純子さん。『おおかみこどもの雨と雪』では黒木華さんや麻生久美子さん。
そういった方々が出演して、メインキャラクターを支えています。
そしてこの方針は、『バケモノの子』でも健在です。
本作では「役所広司さん・広瀬すずさん・津川雅彦さん・リリー・フランキーさん・大泉洋さん」といった豪華な面々がクレジットされています。
大御所や売れっ子の「声の演技」に聞き入ることができるのも、細田作品の大きな魅力の1つです。
豪華俳優陣勢ぞろい!『バケモノの子』の声優・キャスト
ここからは『バケモノの子』の声優(キャスト)やスタッフについて紹介します。
九太(きゅうた)・宮崎あおい(幼少期)、染谷将太(青年期)

女優として有名な方ですが、同監督の「おおかみこどもの雨と雪」でも主人公の花役を演じるなど、声優としても活躍されています。
素朴な声質で、寂しさと芯の強さを兼ね備えた九太を見事に演じ切っていました。
青年期の声を務めるのは染谷将太さん。
こちらも大人気の俳優さんで、映画「海賊と呼ばれた男」や朝ドラ「なつぞら」などに出演し、個性的な役を多く演じられています。
幼少期とは違い、低音の素敵な声が熊徹とのいがみ合いにマッチしていました。
熊徹(くまてつ)・役所広司

声優としてのイメージはあまりありませんが、粗暴さと優しさを兼ね備えた難しい役どころを見事に演じ切っていました。
『バケモノの子』の総合評価

本作の見どころの一つは、なんといっても引き込まれるような導入部分。バケモノの口上と共に、炎で表現される渋天街の様子が実に鮮やかです。
また、火の影だけで情景を表す表現技法に感嘆させられ、物語への期待で胸が高まります。
導入部分で引き込まれた後も、いくつもの見せ場をちりばめることで最後まで飽きずに楽しめる作品です。
とくに九太の成長を描く過程や戦闘シーンの迫力は、大人が見ても子どものようにワクワクさせてくれます。
壮絶な勢いと感動の絆で結ばれた親子の物語は、見る者の心を打つ不朽の名作です。
細田守監督の映画作品紹介
[caption id="attachment_5909" align="aligncenter" width="640"] (C)2009『サマーウォーズ』製作委員会[/caption]2009年8月1日に公開された映画『サマーウ[…]
[caption id="attachment_9606" align="aligncenter" width="640"] (C)2015『バケモノの子』製作委員会[/caption]映画『バケモノの子』。2015年7月11日[…]
[caption id="attachment_10557" align="aligncenter" width="640"] (C)2021「竜とそばかすの姫」製作委員会[/caption]映画『竜とそばかすの姫』。2012年[…]